[――無事だったか……と。そんな一言は口には出さない。
村人達に、誰かが触れられて"消えた"と聞いた時。何が真っ先に頭に浮かんだか、なんて。
代わりに持った籠を目の前に掲げ、軽く背を屈めて背けられた坊主の顔を掴んでこっちを向かせる。
何を考えているかは知らんが、礼も言えん坊主には、素直に渡すわけが無いだろう。]
お前さんが籠を落としたんだ。そして俺はそれを、拾った。
"返して"、の前に何か言う事があるだろう……ん?
[ぶらぶらと坊主の目前で籠を揺らしてみせつつ。坊主の手じゃあ、籠を奪う事など出来んだろうから。
万一飛び掛かって来たとしても、流石に餓鬼に負ける気はしない。
そうして返事を待つまでの間。脳裏を過る、さっきの一件からは目を瞑り、"いつもと同じ"ように坊主を見つめる。
――こいつがどういうつもりだろうと、自分は何も変えるつもりはない。変わるつもりも、ありはしない。
あぁ、だが籠に入った白百合は土で汚れてしまっていたから……教会のものと、変えてやるくらいはしてやっても、いいが。]
(42) 2015/04/09(Thu) 21時頃