―京都街中―
[噛まれて屍と化したばかりの殭屍はさほど強くはない。体は固くて飛び跳ねなければ動けないし、目も良くは見えていない。人間を襲うのは専ら嗅覚に頼っているのだ。妖怪であれば蹴散らす事は大して難しくもないだろう。弱点も多いし、とりわけ火にはめっぽう弱い。
その恐ろしさは強さではなく、人間が変じたものであるという事と、感染力だ。
女子供の変じた殭屍は油断されやすい。奇妙な動きをしてはいても気づかれずに近づき、おかしいと思った時にはもう牙を立てられている。後は同じく、生きる屍が倍に増えているだけだ。]
「おいやすかー」
「よろしゅおすえ」
[意味が分かっているのかどうか、人間だった頃の京言葉を呟きながら、白粉も塗っていないのに真っ白な頬の舞妓が男に噛みついている。
同じ光景は今日のあちこちで、火をつけたように拡大していた。
その元凶はと言えば、京の北、主なき京都御所で霊気を集めていた。]
(38) 2018/11/12(Mon) 21時頃