―生物学教室―
あぁ、そんな持ち方をしては危ないですよ。
[実験台に向き合う1人の生徒の手つきを見咎め、落ち着き払った声をあげた。
大柄な男はスロープを伝って教壇から下りると、生徒の傍へと近寄っていく。
そして、メスを持つ学生の手に、そっと自身の手を添えた]
ほら、こうです。
曲がりなりにも刃物を扱っているんですから、指先だけで手繰ろうなんて考えないでください。
手を滑らせたりしたら、あなただけでなく、周りのみんなを傷つけてしまうかもしれないんですからね。
抵抗があるのかもしれませんが、実験中は、しっかりしてください。
[鍛え上げられた腕で持ち手を正され、低いながらも険のない口調で諭されても、生徒の表情は硬いままだ。
無理もない。まだ十代の彼らにとって、卓上の両生類は命としては大きすぎる。
たとえ学業のためとはいえ、奪うとしては、大きく重い。
相手を気遣いながらも、男の移ろう視線は受け持つ生徒全員に向けられている。
やがてその視界は、別の台にいる生徒をとらえた>>4]
(38) 2011/11/26(Sat) 19時頃