[それからシャンパンを片手に広間の隅のソファに腰掛けた。
この会場にはそれなりの殿方が揃い踏みだったがそんなものには目もくれない。
うつむき、ぼんやりとグラスの中の泡を眺める。澄んだゴールドに止めどなく浮かんでは弾ける泡はまるで尽きない己の野心のよう。
かつて栄華を極めた血統も今や没落貴族。一族の名を背負うがためにたったそれだけされどそれだけで自らの価値まで定められてしまうのは耐えがたい屈辱であった。
9つのとき初めて『彼』とすれ違い、一目見たときからその姿、声、瞳の色、すべてに恋をした。
幼いながら自分の一族の没落した血統のおかげで好機すらないことは理解していた。しかし叶わないと知っていながらも彼に恋焦がれ、毎日祈り、たくさんたくさん虚しい妄想をした。]
−−彼の腕に抱かれて踊りたい。
彼の腕に抱かれて踊るのはこの私−−
[空いている方の片腕で自らの肩をそっと抱き、顔を上げる。これから王子が出てくるであろう方向を静かに見つめた。]
(36) 2016/01/09(Sat) 23時半頃