― 前日・オリュース市電 ―
[実際のところ、掏摸に限らず二両編成の中でトラブルが起きることは稀だ。人に紛れるにはドアの数が限られているし、混めば混んだで意外と人の眼につく。>>0:147
故に周囲の客らにとってはちょっと変わった非日常的な捕物劇に見えるのだろう。露出の高い娘らは物怖じしない性質なのかチラチラと視線を寄越してすらいる。
見世物になる気がないなら早く平静を取り戻さねばと思いはするのに、何故だか難しく。胸の内がやたらとささくれ立つ。]
……………、……財布?
[だが、全く予想していなかった言葉が飛んできて鸚鵡返しの声が間抜けた。
吊っていた眉尻がゆるく下降のカーブを描き、視線は彼の腰元から臀部へ。顎を引けば近い位置からハスキーボイスが聞こえて瞳を瞬きで洗った。>>11]
(36) 2019/07/28(Sun) 01時頃