―昼前/教会の聖堂―
[目を閉じて、祈りのことばを頭の中にめぐらせる。でもそれは形だけ。カリュクスの内心はどこまでも空だった。
儀礼的な祈りを捧げたあとも、しばらくはそのままで。
この静謐は好ましいと思う。なので祈りの時間は苦ではない。
ようやく目を開けると、立ち上がって教会の外へ向かう。
たいへんめずらしいことに、散歩でもとすすめられたので。それも一人でだ。
同行の司祭はここの司祭と何やら話があるらしい。
午前の便で着いたばかり、まだ荷解きも済んでいないのに追い出すのだから、よほど聞かれたくない話なのだろう。
おそらく、カリュクスの奇跡――癒しの力が衰えているのと、関係のあることだ。
こんな時にわざわざ森真珠の産地を訪れるのだから、何らかの思惑があるのは間違いない。
けれど己に知らされることがないのはいつもの通りで。
カリュクスはただ、言われたことに従うだけ。
ともかく、せっかくの自由なのだから。
嵐の前の静けさに、美しい小さな島を見ておこうと、今は外へ]*
(35) 2017/08/08(Tue) 19時頃