【人】 漂白工 ピッパ

[入り口に佇んだまま、静寂に耳を傾ける。

目を閉じれば浮かんで来る音。
今までは深く震える弦の音だったのに、今は違う。

今女の脳裏に静かな波紋のように浮かび上がるのは、食堂と地下で聞いたゲイルの、階段で聞いたアイリスの──それから、昨夜幻想の中に見た、色に狂ったように男と交わる、己嬌声。]

　（嗚呼──……。）

[ぞくり、ぞくりと胸の奥が震え、頬に赤みが差す。]

　…───。

[踵を返した足は、ラルフの居る2-Cの客室でも、自分用に宛てがわれた2-Dの客室でもなく、銀の南京錠で戒められた扉の奥──屋敷の地下へ続く階段だった。]

(33) hana 2012/12/16(Sun) 23時頃