─5月5日 深夜2時 薬屋「三元道士」─
[今日も明るく…息を殺したような地上の事などそら知らぬ顔で、美しいばかりに在る夜空。天へと向けて、声にならなかった言葉を緩りと唇を動かし放った。吐息の音だけが薄く漏れ出で宙へと散る。
口角に掠めたのは、何か嘲るような笑み。──ああ。本当に、最悪の気分だ。刹那の後、唇が緩と歪んで閉ざされた。
暗がりの中、ひっそりと…見た目だけは変わらず在る薬屋の看板へと向けた瞳が薄まり、一度瞳の色を隠して伏せられ。再度開いた双眸に乗った色は、夜の気配に濁らせたような灰緑。緩りと足を踏み込んで扉に近づくと、ノブを骨ばった指が握りこみ]
──、[声をかける事もなく、扉を開こうと腕が動く。しかし、この時勢の事もあるだろう。既に鍵が閉ざされていたならば、引っかかったように止まった手に落とした視線はやんわり細められ、それ以上店の主を呼ぼうとする事はなかった筈。もし鍵が開いていたならば──自身はそのまま、店内にゆっくり入り込む事も叶っただろうか]
(33) 2013/07/27(Sat) 05時半頃