―5月3日朝7時頃、第二封鎖線付近―
>>30
[瞳に映る空からは朝焼けの気配もすっかり消えていた。どれ程そうしていたのか、もうナユタにもわからない。冷えた指先がその長さを如実に語ってはいたのだけれど。
――木々のさざめきに混じって、軋む小さな音が耳に届いたような気がする。もしかすると町の誰かが自分を詰りにやってきたのかもしれない。罵倒は覚悟の上で固く強張った顔を街へと続く道へと向けた]
――………チアキ…
[赤い自転車と佇む姿と、何よりも名を呼ぶ声に心臓を掴まれたような痛みが胸へと走る。なんで、どうして、と…思いを巡らせる程にに都合のいい期待をしたくなる自分が心底嫌になった。
逃げ出したいのに、竦む足は地面に張り付いたように動かない。何時かはどうせ投げつけられるであろう言葉だったけれど、それをチアキの口からは聞きたくなくて、その癖逃げ出すことも叶わずにただその姿を見詰めた]
(32) 2013/07/23(Tue) 19時頃