─訃報が広がるひと月前─
“あれ”はあんなところに閉じ込められていいものだとは思えない。
確かにこの館にあってこそ価値のあるものかもしれないとは理解しているけども、なんとも勿体ないことじゃないか。
[学業を修めた後、実業家として名を馳せてきた父の仕事を受け継げば、生活にそう困ることは無かった。
それでもあの絵のことが忘れられずに、時折招かれてもいない癖に館に訪れては、欲しがる男の姿はどう見受けられたものかは分からない。
恐らく従兄弟という好から許されていたのだろうとは推測する。
ならば、とジェフは許されるままに自分の欲求を素直に告げた]
館と一緒に閉じ込められちゃ浮かぶものも浮かばれないだろうに。
[宝の持ち腐れだ、とばかりに絵画を見つめながら考え込む。
この絵を描いた人物は何を思いながら筆をとったのだろうか。
いつしか会ってみたいと、500年前の故人に思いを馳せてしまうくらいには愛しているのだ。あの、作品を。
きっと、誰かのこころを奪ってしまう確かにあった誰か達の思い出の瞬間を。
ジェフはそれを世に残したいと多くの人の記憶に刻みたいと考えていた]*
(31) 2016/07/27(Wed) 00時頃