―いつかの話―
[茶色い髪を結い上げて、旅装束に身を包んだ若い娘がひとり目を輝かせながら目の前に広がる光景に心を躍らせていた]
す…っごい!
[興奮気味にひとりごとをつぶやいて、かじりつくように見ていた。周りの不思議なそうな視線に気づき、そそくさとその場を立ち去ったが初めて海を見たという経験は娘をいたく興奮させた]
ああ、海ってああいう感じなんですね…すごい、一面が青くて…どこまでも続いてるような…!
[一人できゃあきゃあ言いながら、今夜の宿を探し始める。この作業は、もう慣れたものだった]
[浄化されたあと、結局彼女は里にも戻らず、かと言って人間に紛れて生活することも選ばなかった。彼女は、世界を見ることを選択したのだ]
…こんなにも、広かったんですね
[すれ違う人々を見て、そうポツリとこぼす。自身がいた世界はなんて狭くて窮屈な場所だったのだろう。だからきっと、澱んでしまったのだ]
[きゅ、と服を掴んで。服の中にしまった翅が小さく震える。いつまで生きれるかもわからないが、生きている限りは旅をしていろんなものを見続けていこう。何を得るかはわからないが、それはきっと悪いことではないのだから*]
(30) syuo 2015/09/29(Tue) 23時半頃