― 回想/セシルの客室 ―
>>16
不名誉だなんてとんでもありません!
[むしろ逆だ。少女なら誰しも有頂天になってしまいそうな、夢の一時だった。
全く素顔などではないのによく言えたものだと自身を罵倒しながら、強調するように、一歩、また一歩セシルへの距離を詰める。次に仮面からセシルへと視線を上げた時には、瞳は嘗て一信奉者だった頃と同じような、一途に焦がれる無垢な熱情を燈していた]
わたくしとて、このようなことは
できるだけ避けとうございました。
夢は夢のまま、貴方にだけは何も知られぬまま、
綺麗なアイリスを覚えていて欲しいと、願ってやみませんでした。
[返ってきた視線は、疑惑の色濃く、女の胸を射抜くそれに変わっていく。
前にも言った。夢は終わる。自分の手で幕を引かねばならない。
泣き笑いに顔を歪めながら、まだ迷う。苦しい胸の内を全て打ち明けて、それでも変わらぬ友などと彼が呼んでくれるはずはないのに。誘惑を押し留めたのは、耳元で囁く――仮面の聲。
呪いの仮面は全ての死を共有し内包する。十指にこびり付く感触が、セシルの男にしては細い頸に巻きつこうと欲する。
――それだけは、駄目だ。震える拳を握る]
(30) 2011/02/12(Sat) 14時頃