― 昨夜 ―
[空に男の眸の色よりも鮮やかな、紅い色をした月が登るのを眺めながら帰路につき。
エフェドラの帰りが遅いようなら、その日の客は執事服のままバーカウンターに立つ男の姿が見れたことだろう。
客足も途絶え、閉店作業を終える頃には、頭がガンガンと痛み出した。それに相まって、何か、獣の鳴き声のようなものまで聞こえだして>>16イライラが募る。昨日と同じようにベッドに身を投げ出すと、閉じた瞼の裏でフラッシュバックのように蘇る光景。
目の前には、リンダの姿。その向こうには霧が立ち込める海が見える。あの時だ、とはっきりわかった。
彼女を視ようとして、浮き上がる影。それを覆っていた霧が少しずつ晴れてゆき、影は、綺麗に彼女の姿と重なった。
ああ、リンダは、人間だ。
そのことに深く、安堵して、男はそのまま意識を手放した。**]
(29) 2013/09/05(Thu) 01時半頃