[そうして、神門《ゲート》へと赴こうとしたとき。
ふいに、足下の猫に気付く]
そうか……彼が、君の主だったか。
[横たわる遺体に眼を向ける。見覚えのある黒猫が、その顔を舐めていた。使い魔としての気配は既に無い。
紅き蝶がその主の遺体に降り積もり、慈雨が優しく血を洗い流していた]
"بقية في السلام"――
[古き言葉で冥福を願うと、その遺体に、蒼き十字を墓標のように突き立てた。
愛《ジユウ》と混沌《シアワセ》の光に包まれた身体は、やがて森の土へと沈んでいく]
[その刹那。
土からひとつの芽が出た。若葉は即座に天を目指し、急速にその葉を、茎を、幹を創り上げていく。
瞬く暇も無くそれは大樹となり、美しき白い花を咲かせた。
自らの命と引き替えに森を、世界を護りし英雄の大樹《キルシュタイン・ユグドラシル》――]
(26) 2013/06/08(Sat) 15時半頃