[辿り着いた先は、独特の芳香が漂う屋台。
店番が年若い女性だと気づいた時点で、勢いづけて左手を払う。恐らくこれが、彼の"素"なのだろう。
砕けた口調にほんの少しだけ目を細める。
不機嫌未満の表情は店についての説明を耳に、違う意味で眉を顰め。]
……きみ、…いえ……セナ様はこのような店と
馴染みになる程、お怪我をする機会が……?
[車掌とはそれほど過酷な仕事なのか。
繊細な顔の造形と違い、武骨な指を思考に、視界に。
手にした硝子壜のラベルに意識を向けた時には既に、右手は囚われていたが、流石に振りほどけなかった。
掌越しに患部へと液体を塗り込める彼の表情があまりにも真剣で、思わず魅入ってしまったから。
何度も、何度も。
柔らかな粘度は彼の掌との摩擦で滑らかさを増し、乾いていた手の甲からやがて百合の匂いが立ち込める。]
(26) 2019/08/03(Sat) 03時半頃