―5月5日早朝、チアキ宅前―
>>22
[響くベルの音にこめかみへと冷たい汗が伝う。来なければよかったと、一瞬浮かびかける思いをねじ伏せるように二階を見上げた。
チアキは起きているだろうか――程なく聞こえる物音に、乾いた口中を潤そうと唾液を飲み下す]
………ハルナの部屋、見た
[遠回しに尋ねるつもりだったのだ。きっと何か事情があるのだろうと。上手く話すきっかけを与えてやらなくてはと。
けれど口をついて出た言葉は眠れない夜に幾度も幾度もなぞったものではなく、単刀直入な問い掛けだった。
だって知らない、こんな笑顔は…まるでチアキと同じ顔をした得体のしれない何か――まるで化け物のような、深淵を覗く瞳。
ああ、きっと、もう――チアキは壊れてしまったのだと、予感する。
何故か決定的に、そう、思う。
いつの間にか握りしめていた掌へと食いこむ爪の痛みを今自覚した。強張る指を開いて、恐る恐るチアキへと伸ばし、触れれば暖かいその身体を引き寄せて力任せに抱きしめた。
ただ、悲しかった]
(24) 2013/07/27(Sat) 04時頃