―午前・村外れ―
[どこかふわふわした心持ちのまま、わたしは集落の外れに建つ小さな一軒家をへと歩いていった。
通りすがりに目にした井戸で、周囲に水が撒かれていたのは何故なのか、わたしの意識の表層では理解できていない。]
……誰があんなに、溢してしまったのかしら。
[でも、欠落した記憶の中には答えがあった。
わたしも彼女と同じように、一緒に水を浴びていたからだ。
輝く満月の光の下で。
修道衣ではなく娼婦の服で。
水で透けた生地が肌に張りつき、裸の姿を浮かび上がらせるのを愉しみながら。]
……レティーシャ?
……いるかな?
[扉越しに声を掛けて、あっと固まった。
中から聞こえる彼女の声。
「仕事」の最中なのか、違うのか。他人の気配は無いようだから、違うのだろうけれど。
ふ、と小さく息を吐いて、提げてきたバスケットを扉の前に置いた。一日分のパンとチーズ。さして上等なものではないけれど、週に一度、こうして差し入れと共に彼女の家を訪れるのはわたしの願い出た務めだった。]
(22) 2016/12/05(Mon) 04時頃