……ごめんください。
[屋敷の扉を叩く手の持ち主は、少し幼さの残る青年。その指は細く、白い。
ノブを回して扉をギィっと開け、その精悍な顔をのぞかせる。]
本日はお手紙くださり、ありがとうございます。
(ここに戻る時が、まさか彼女が死ぬ時だなんて)
[彼を救ってくれた彼女を、母のように慕っていた。そろそろ休暇をとって顔でも出しに行こうか、と思っていた矢先の悲報に、彼は悲しみと驚きで整った顔を歪ませる。
が、すぐに顔は無表情に戻る。]
僕はかつて彼女の専属ピアニストをしておりました、セシルと申す者です。彼女に勧められ、独立し、方々を飛び回っていましたが…まさか、こんなことになるとは。
[周りに一礼する。きっと周りは自分よりも目上だろう、という見立てをたてたためだ。
久しぶりすぎて、誰が誰だか一目ではわからない。
そのまま無表情を崩さず、顔を上げる。]
(遺産目当ての奴には絶対に渡さない。
あの絵だけは、僕が守り抜かなくては)*
(22) 2016/07/26(Tue) 23時頃