[ バターを塗ったトーストを口にした。
サクサクと音を立てる中、カトラリーの起こす音が起こすほんの少しの気配は温い。
半熟卵が蕩けてベーコンに滲む。
レタスとブロッコリー、トマトと色鮮やかなサラダを噛み締めるとしゃきりと、小気味好い音を立てた。
スープはほんのりと暖かくて胃を休めてくれる。
大した会話はなくとも途切れる事ない言葉を流しながら、テレビを見た。
「凄いよね。」
母がそう言って眺めるひとは母と同い年の女性だ。
裕福な生まれだろうけども派手ではなく、
控えめながらに華やかな印象を与える女性は、画面の向こうで微笑んでいる。
その傍には俺より少し下の少年が立っていた。
その手には最年少でピアノコンクールに受賞したトロフィー。
見目も麗しく姿勢も良く笑みを浮かべる少年は、女性と良く似た表情をしていた。
半熟卵を切り分け運ぶ。
卵黄の甘ったるさを誤魔化すように塩辛いベーコンも口に含んだ。 ]
(21) 2018/02/10(Sat) 01時頃