― 極夜城城門 ―
[親の庇護を無くし、消えゆく魔力を自分より下級の者を食らって補ったとしても、決して満たされる事も無く。
父と決別する際残った喉の傷痕を、黒い毛に覆われた手が触れた。微かに疼く。
何処からども無く漂う芳醇な、魔力の匂いに無意識的に喉を鳴らせ、目の前にある城と金の月を眺めた。
風の噂で聞いた。
黄金の月が満ちた時、自分より遥かに高い魔力を持った者が城に集う、と。
その者達が自分の様に脆弱な魔の者を見つけ従う、と。
其処に行けば力を貰えるのだろうか、己が従者となれば生きながらえるのだろうか。
そもそも誰かに従うなど性に合わないのだが、己が生き延びる為に耐えるしかないのか、と考えながら。
黒い毛の尾っぽは、ゆらりゆらゆらと揺蕩い。
ふんふん、と鳴らす鼻には、芳しい香りを捉えながら匂いの元を探そうと、一歩、また一歩と城に近付き、門を潜った。]
(19) 2015/07/29(Wed) 22時半頃