[カレーもおいしい。
チキンも、もちろん美味しい。
どちらも普段自分が作るものとは違う味で、他人の手が入ったことがわかる食事だ。
濃い目の味付けになってしまう自分には、カレーは甘くて、優しい。
後味にやわく残る、すりおろされた林檎の甘みは、次の一口をつい求めてしまう魔力がある。
唐揚げは下味がしっかりついていて、噛みしめると溢れる肉汁に絡んで、うっかり奪い合いに参戦してしまいそうだ。
けれど、男が一番箸を伸ばしたのはサラダだった。
かけられたドレッシングの味が、いたく気に入ったから。
作る過程は見ていたから、シンプルなものだというのは知っているのに。
合間の箸が止まる気配をみせず、さながら菜食主義かと疑われそうなほどだった。
箸が進む理由は疑うべくもなく、分かっている。
そこにはきっと、彼が作ったものだという、最大の隠し味が効いているからに違いない。]
(18) 2015/11/14(Sat) 10時頃