[…人に触れることができたら?
そんなこと、考えたこともない。人間に触れるという行為により自身が消えてしまうことは、常識だ。考えるだけ、野暮なのだ。]
…よっ、と。
[砂を撫でていた二本の足で、その場に立つ。水平線を見渡せるこの海辺の景色は、この村で育ってきた彼にとって見慣れたものだ。
潮の香りのする心地よい風が頬を撫ぜる。彼が落ち着く、好きな香りだ。]
もう少し、遊んでいこうかな。
[誰へと向けた言葉ではないが、そう俯いて呟く。その言葉は波の音にかき消されてしまったが、彼は気にせず少しの笑みを顔に浮かべ、海へと近づく。
先ほど脱いだ靴は元いた場所へ置いたまま、海水に足を入れる。海水の冷たさを足首まで感じながら、ぱしゃぱしゃと足で水を蹴る。
大人になってまでこのような遊びをする自分に恥を感じながら、誰も見ていないなら、と自分を甘やかすことに決めた。]
(16) 2015/04/05(Sun) 17時半頃