──キネーン・シアター 舞台袖──
……はい、確かにお渡ししました。
それでは、──……
[華やかな舞台の裏で、淡々と事務的なやりとりを交わす。
自分の持ってきた荷物を受け取って立ち去る男を、軽い一礼で見送った。
微かに聞こえる歌声を聞きながら、目を細める。>>2
声の持ち主は、この街、キネーンのこどもショービジネスのトップスター。
裏へ回る時に通ったロビーには『全席完売』の文字があった。
今日もあの愛らしい、小鳥のような老婆は、人々の視線を一身に浴びて歌い踊っている。
彼女の身に纏った衣装は、自分の作ったものかもしれない。
先程、男に手渡した荷物の中身も、新しい衣装だ。
子ども用のサイズのそれは、きらびやかな装飾で飾られていて、自分の趣味からは程遠い。
そんなことを思ってはみても、仕事をえり好み出来る程の経済的余裕などもなく、結局は与えられた仕事を淡々とこなしてゆくだけなのだけれど。]
(12) 2015/09/13(Sun) 02時半頃