[ゆっくりと息を吸い、吐き出して心を落ち着けていく。
そしてゆっくりと両手を口元と喉から降ろしては穏やかに笑みを浮かべて見せた。
差し出された相手の手を甘んじて受け立ち上がる。
そして袴の両側を軽くつまんで、優雅に一礼してみせたのだ。
"御機嫌よう"と言いたげに]
[このままでは相手に意思を伝える事は出来ないがそれでも良いだろう。
相手に背を向け歩き出せば、カツリと足で硬質な何かに触れた。
見れば、血塗れとなってしまったが己の小刀が鞘を抜き身のまま落とされていた。
それを、そっと拾う。
これで何とか、護身が出来れば良いのだが。
何かを話しかけられたとて、今の娘は己を脅かした男には極上の笑みしか浮かべて見せぬのだろう。
"これで良いのでしょう?"と言わんばかりに。
そして、コツ、コツ、と部屋の出入り口に向けて歩き始めるのだ。
生ける人形は、生きているからこそこの男にこれ以上従うつもりはなかったのだから]*
(10) 2016/02/28(Sun) 12時頃