[仕方ない。仕方ない。]
[僕よりもあの子は早い。私よりもあの子は早い。
俺よりもあの子は早い。私よりもあの子は早い。]
[仕方ない。仕方ない。だってーーー]
[意識を取り戻せばそこは山ではなく、どこと形容してよいか判断に困るーーーただ広い空間であった。
視界には夕暮れのような赤みがかかっているように思えば、夜の黒を感じることもある。不安定、ダブりが生じているような不可思議な色彩。]
[私は何をしていたか。そう、蝶を食らおうとして追いかけたのだ。
蝶はどこだ。僕よりも早い蝶はどこだ。
おぉ…おぉ…。どこだ、どこだ。]
[パキパキと、フードから針のような棘が生える。
袖や背中にも生えてハリネズミのように剣山を生やし、小さな身体の筈のそれは、時折衣服の中でブヨブヨと蠢いている。]
[酷く緩慢な動き。踏みしめた一歩は地面に足跡をメリメリと残す。]
(9) 2015/09/16(Wed) 08時頃