──過去回想B──
[ちょうど相手が引退間際に告白したので、それ以降も毎日のように顔を合わせることにならなくて済んだのはよかった。
そうは思ったものの、失恋の痛手はそう簡単に癒えてはくれない。
その頃にはもう親しかった渚には、失恋したことは打ち明けたものの、彼女にすら大手を振って泣きつくことはなかなか出来なかった。
だって、先輩曰く、"かっこいい汐崎みやび"だし。
なんか、失恋して泣くのって可愛い女の子の特権っていうか、あたしには似合わないし。
"可愛い"よりも"かっこいい"の方が似合う自分を恨めしく思ったことなんて、それまで本当になかったのだ。
そりゃ、可愛いものに憧れはあったけど。
自分の高身長も別に嫌いではなかったし、走るのだって好きだった。
だけど、──ああまで言われたら、凹まざるを得ない。
なるべくその感情を表には出さないように、いつも通りいつも通りと唱えてはいたけれど。
たぶん、人生でいちばん"可愛い"を僻んだ時期だった。]
(8) 2014/10/17(Fri) 20時頃