― 中世風景の残る街・とある酒場 ―
「ちょっと、トネール。起きなさいよ。」
あー…うん…。
[ぐでっとグラスを片手に、カウンターで突っ伏した男を女店主が肩を掴んで揺するが、男は―ホレーショーは黒い手袋に覆われた左手をふいと持ち上げただけで、それもすぐに力を失くし、バタンとカウンターの上へと落ちた。]
「もー…。」
[困ったように、店主は肩を竦めて、使用済みの食器を洗うためにホレーショーに背を向ける。この男は、見た目があまりにも小汚く見えると思えば、この突っ伏した顔もそう綺麗なものではない。髭なんてほどんど伸ばしっぱなしに見えるし、ぼさぼさの濃い茶髪は、前髪がいつも顔のどこかにかかっていて、酷く邪魔そうだ。太く凛々しい尻上がりの眉も、時々優しく細まる尻下がりの目も、彼が身綺麗にすれば悪くない容姿だと、そう言っているようなのに。
だぼだぼの着潰して酷く伸びた紺のニットも、ああ、本当に着替えているのかと疑いたくなるような、よれたワイシャツも、彼の立場があまりよくないと物語っているようだった。――なのに。]
(8) 2017/08/31(Thu) 00時頃