[聞き覚えの無い声。
女が謡う子守唄が鼓膜を触る。
直ぐ背後に何かの気配を感じ取った。
背を押す掌に数歩、靴裏が土面を踏むも、振り返った先には人の気配は無し。
何かの呪術かと頭を揺らす。
ラルフがその様な術式に長けて居るとは思えず、シュウルゥの為したものなのか、と判断を及ばせた。
一瞬、何者かの輪郭のみを捕らえたが――…白んだ朝靄に霞み、その存在は目の前で水泡に帰す]
キミが取り戻したいヒトは、……彼女か?
[書庫で交わしたホムンクルスの話を思い出す。
地に膝をつき、重い身をなんとか抱きかかえた。
一部、半端に焼き切れたシュウルゥの長い髪に指を通して撫でる。
焦げ跡が指先に掛かり進行を防げば、そこで指を抜く。しかし中途な所で既に切れていた為、幾らかが自身の指に、掌に絡まってゆく。
折角の黒艶帯びた長い髪が勿体ない…と哀しく笑った。
尋ねた問いに、答えは戻らない――…。
深い眠りの中に居る友人の背を、穏やかに撫でて、一度手触りの良い布地を握り締め。]
(7) 2014/02/04(Tue) 08時半頃