いえ。いや。ええ、その
――…………ジェームス、さん。
[離れる背(>>0:305)を、躊躇をたっぷり含んだ小声が呼ぶ。
プライベートに水を差すのは申し訳ないが、呼称ひとつ変えるにも少なからずの決心が要る。ビジネスの相手との関係性を慮って――というのは嘘偽りなく本音だが。それ以上に、このプライベートな接点に戸惑っている点が大きい。
最後に一度……と喜んだはずが。
最後の一度……が怖くもあった。
一年かけた商談も、そろそろ終いだ。
良い返事を貰えたらミロ自身がイングラム社に赴く機会はぐんと減る。悪い結果に終われば、もちろんそこでビジネスの関係も潰える。何にせよ、これ以上、国境を越えて毎月打ち合わせに出掛ける体力がCrépuscule SARLには残されていない。
下手にプライベートの繋がりを得て、不毛な期待に胸を躍らせるのは愚かだ。欲を抱けば身が焼ける。彼は友達ではない。友達になどなるべきじゃない。まして、人には言えない想いを寄せて良い相手では、ない。]
(7) 2015/11/12(Thu) 01時頃