―5月4日朝7時頃、市街地―
[浅い眠りに残る疲労で怠く重たい身体と裏腹に、頭の芯だけは緊張に冴え渡っていた。今日から投票が始まる。暴動へと備えての装備を身にまとった隊員へと指示を出し、己は見回りと称して市街地へと足を向けた。
町を歩く度に聞こえてくる押し殺した非難の言葉にも、時折浴びせられる罵声にももう慣れた。――投げつけられるゴミや小石だけは未だ受け流せはしなかったけれど。
たった一日の事なのにと自嘲する。心が固く冷えてゆくのにさしたる時間は必要ないらしい。
あてどなく町を歩く。ほんの2日ほど前までの日常が懐かしい。ボランティアの皆、名も知らぬ少女、露蝶――それにトレイル。
脳裏へと浮かんでは消える顔を思い返せば胸が苦しくなる。深い溜息を零して、ナユタは閉じたシャッターへともたれかかり足元へと落ちる影を見詰めた]
(5) 2013/07/25(Thu) 00時半頃