― 学園内・屋上 ―
ある晴れた午後。
昼休みのざわめきと鳥の囀る声が遠く聞こえる屋上で、雑誌を顔に伏せたまま寝転がっている学生服の青年が一人。
胸の上には友人たちから「骨董品」の呼び声の高い、古いMDプレイヤ。イヤホンからは、プレイヤよりも更に古臭いロックン・ロールが漏れている。
彼の名は高橋虎太郎、この学園の芸術科に通う二年生である。
英国系のクォータ(残念ながら、日本で生まれ育った彼の英語の成績は惨憺たるものだ)である彼は、友人たちからはミドルネームの"ラルフ"と呼ばれる事も少なくない。
ジジ、とスピーカがノイズを発し、午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。耳慣れたメロディは、ベートーベンの交響曲第九番。
チャイムがとっくに鳴り終えて、生徒たちのざわめきが静かになった頃、ぴくりと身じろいで、彼は目を覚ました。
顔の上の雑誌をずらし、イヤホンを外しながら、耳元に置いた腕時計をちらりと見る。]
――あ。5限、始まってるや……
[寝ぼけ眼でしばし思案して、高橋は午後の授業をサボタージュする事に決めた。]
(2) 2011/11/25(Fri) 20時頃