[アイリス。 花の名を戴いた男爵家の娘は十六の春、三十三歳年上の老侯爵に嫁いだ。 侯爵家の経済的な援助を目的とした、珍しくもない政略結婚。 時は過ぎれど幼な妻に嫡子はなく、ヴェスパタイン王子の不興を買った侯爵は、宮廷での権力も領地の一部も没収された。その三ヶ月後、半ば隠居状態で滞在していた屋敷が、業火に包まれた。 逃げ惑う使用人たちを嘲笑うかのように、天をも焦がせと紅蓮に燃え盛るは火蜥蜴の舌か。黒煙に、火の粉に、容易く呑み込まれた屋敷は、三日三晩の炬火となり、残ったのは炭と瓦礫と焦土だけ。 負った火傷で危篤状態であった侯爵夫人は、遺体すら残すことなくこの世を去った夫の葬儀を取り仕切ることすらままならなかった]
(2) 2011/02/01(Tue) 20時半頃
sol・la
ななころび
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