―5月5日早朝、チアキ宅前―
[結局一晩中眠りに就く事は出来なかった。目を閉じても瞼の裏に浮かぶ光景――血痕に彩られた少女の部屋。
まだ薄暗い部屋の中、制服へと腕を通す。まだ眠っているだろう祖父母を起こさぬようにと足音を忍ばせて玄関へと向かった。
――そういえばマドカはどうしているのだろう。行き違いばかりで姿を見かける事のない少女の顔が浮かんでは消える…やはり自分の事ばかりだと、思い知らされるようで、辛い]
[チアキの家への道のりは、遠いようにも近いようにも感じられた。一歩歩むごとに踏み出す足が重くなる――出来ればこのまま帰ってしまいたいと、そう思う。
でも…
自分を助けてくれた、慰めてくれた、抱きしめてくれたチアキを見捨てる事だけは出来ないと――ポケットに入れたままの小さな鍵を握り締める。
使うべきかと悩んだけれど結局鍵はポケットの中へ。震える指先をドアベルへと伸ばし――押した]
(0) 2013/07/27(Sat) 00時頃