−ふたりぼっちのせかい−
[妹はパンを焼くのが好きだ。
帰れば時折香ばしい小麦の香りがふんわりと家中を包み込んでいて、バターの香りと、カンカンと鳴るまな板の木の音が疲れた体を出迎える]
おかえりなさい、お兄ちゃん。
[柔らかい声が兄を呼ぶ。
到底己の身に余る金色の宝石は暖かい笑みでもって俺みたいな薄汚いのを甘い声色で呼ぶのだ。
それは彼女と片方だけでも血が繋がっているから、そして彼女を守れているからこそ得られる囁かな幸せ。
でもそれが己の全てだった。
親というものが一人も居なくなって、世界に二人ぼっちになった時彼女だけは守るとそう誓ったのだ。
手を広げると暖かさが胸へ飛び込んでくる。柔らかく、美しく、この世の美をすべて集めたって言ったって嘘じゃないんだきっと。
そのぐらい、俺の妹《たからもの》は、世界で一番尊い。]
(+45) 2018/03/02(Fri) 02時半頃