[ゆっくりとシルクが近付いてくる。ワレンチナの目からはふわふわと涙が溢れ続けていて、それらは近付いてくるシルクの頬や、髪や、指先を音も無く柔らかくすり抜けて、やがて海へと溶けていった。
彼の両手が自身に触れるその瞬間まで、ワレンチナの視線はシルクに真っすぐ注がれたまま――そうしてゆるやかに抱きとめられ、一瞬目を見開く。それはあまりに優しい抱擁だった。今までの何もかもを、許してくれるような――]
ふ……、う、
うわああああん。ああーーん。わあーーーん……
[ワレンチナは彼を抱き返して、大声を上げて泣いた。時にしゃくり上げ、いやいやをするように彼の肩に、胸に縋り、泣き続けた。
ワレンチナの泣き声はゆるやかな波となって広がってゆいった。その残響。反響。それらは鐘の鳴るようにどこまでも幽玄に響きあって、その場のすべてを幻のように包んだ。]
(+28) 2016/05/21(Sat) 23時頃