[生ける死者のはびこる街を、男はぐるりと見渡した。
死人の闊歩する脇で、しゃがんで抱き合うカップルがいる。
強く唇を噛みながら、夜空を睨むスーツ姿の男がいる。
両手で顔を覆い隠し嗚咽する老婆の肩を、二十歳そこそこの茶髪の若者が悔しそうに撫でている。
そのほとんどは悲痛な面持ちで、身に降りかかったであろう悲劇を嘆いてはいるけれど……涙を流している顔までは、男は見つけることができなかった。
もっとも、一部にはいかにも時代錯誤な服装をした者も見られたから、全員が全員、今日の混乱の中、命を落としたというわけではないのだろう。
彼らが生者でないことは、不思議な感覚で判別がつく]
妙な感じです。生物的には死亡したはずの感染者の方々と、俺達みたいな肉体をもたない本当の死者が入り混じっているなんて。
動くも死んだ人間なら、俺達のことを何て呼んでいいのか、訳が分からなくなりますよね。
生き物と対比して、逝き物、さしずめ「逝人」と言ったところでしょうか。
…………あ。
(+10) 2011/12/06(Tue) 22時頃