―牢獄アムネシア―
[”それ”が運び込まれたのはドナルドの投獄より先だっただろうか?後だっただろうか?
数体のドールの手によって運び込まれてくる大柄な男。
咽喉の肉が大きく抉れ、裂けた肉が剥き出し、筋線維を幾つも傷つけたお蔭で頭の重みを支えきれなくなり、首が有らぬ角度に曲がって居る。
運ばれる前に同胞に血を与えられたとてその頃には既に仮死状態、飲み込む力も無ければ、随分と長い間、人工血液しか口にしていない男の回復は、意識が無ければ、鈍く、遅い。
凡そ、生きている”もの”には見えぬ男は、べったりと血に濡れてはいるものの、それ以上の出血はなく、死者特有の肉が血が、内臓から腐り始める独特の臭いは無い。仮死状態のままに体温は低く、喉を損傷し呼吸こそ取り戻して居ないものの、心臓の鼓動は静かに、けれど確かに止まる事無く動いている。
化け物と呼ぶに相応しい有様だった。
床に放り投げられたそれの目覚めは、まだ遠そうだ。]
(+1) 2014/02/04(Tue) 15時半頃