196 Fiducia - 3rd:fragrance -
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さっちゃんは、まずい、ね……。
刀持ってるし、暗いし。
[さすがに、大勢居る暗闇の中、問答無用で斬りかかってくる事も無いと思うが。]
アタシ、声出さない様にしてよう……かな。
[暗闇に紛れて、居る事を気付かれずにやり過ごせるだろうか? どうしよう。]
[宵渡殿の名前を聞いて、どのような方か顔を思い浮かべることは出来ませんでした。
『やさしいひと』『なきそうだったひと』と聞いていなければ、天宮殿の命が危ないとざわめいていた事でしょう。]
成程。主は朧が何もせぬと信用しているというのだな。
戻らねばそれこそどうする。待たせているのに。
[見えないのを良い事に、盛大に眉を顰めました。序でに舌も出してやります。]
抱きかかえるなど、私は赤子か。
……よ、よし。明ちゃんに、任せる!
行きたければ、声を潜めて付いていく。
行かなくてもいいなら……居間か部屋かな?
[でもやっぱり本当は、一人で朧さんの所へ行くのが一番良い選択肢。だと思う。]
……とにかく、本当にアタシは一人で平気だから。
明ちゃんの安全を優先、しつつ。ね。
[だから、こんな言葉を付け足してしまう。
一人に慣れ過ぎていて、つい。]
宵渡様。
[二度目、彼が雷門の名を呼んだ声色に。
ふっと何か、ふるえのようなものが聞こえた気がして――、
彼の近くで、手を繋いだまま、震え無い声で名を一度呼んだ。
雷門がみつを、人をあんなにも、優しく、殺められる様は見ている。
死の先に信ずるものを見出しているような言葉も、また。
――『哀しみ』は、と。次は、と。そんな声も今、聞こえてくる。]
ええ、風伯様、でしょう。
先ほども、声が聞こえた気が、しましたが――此処に居るのですね。
[努めて、震えない声で、口に出して、]
す…てんど…ぐらす…というのですか…これは…
…など…かったのだ…
…に…り…かる…と…れぬよう…り…う…
[きっと、短くも長くも無いような間の後に。]
でんわ。 は、何処だったか。
[何処からか、遠く聞こえてきた声を、聞きながらも。
――先ず口に出したのは、こんなことだった。]
ん、と
わか、…った
[頷いて、片手を壁につけゆっくりと歩き出す]
とりあえず…声の聞こえた方に
暗いし、それくらいなら
多分、大丈夫
[一人で平気、と繰り返す小鈴の手を改めて握り締める]
……おれは一人じゃ、駄目だから
[歩む先は―――大広間]
……そう、……
ここに。
[傍らの声は、震えない。故に、己も落ち着かねばと思うけれど、自然と亀吉の指先を強く握りしめる。
人の気配は、確かにある。それがどこにあるか、近くなのか遠くなのか。察する術は何もない。
次になんと雷門に声をかけるべきか。迷う刹那に、亀吉はまた口を開く。
でんわ、と。
異質の音は妙によく耳に響いた。]
でんわ、……
探すか? 備え付けるなら、壁際……だが
[以前いた洋館で見たその仕掛けは。
彼が探すのなら、先ずそれを探すべきかと**]
[朧は信用できるかと問われて、少し間を空けてから、口を開く。]
えぇ、まぁ。
あの方は――きっと。何の保証もありませんがね。
[ただ、書庫で交わしたいくつかの言葉。
殺意があれば、簡単に殺れたはずだ。
怖くないのかと聞いていた、あの言葉に。
否と返した自身は、間違っていないと。]
早く戻るも何も、今この状況でどう早く戻れたと言うんです。
[出す舌は見えないが、代わりにこちらも思い切り眉根を寄せておいた。]
赤子でなくとも、現にお立ちになれませんのでしょ。
亀吉様を置いておけないのと同じ、貴方様も一人では置いておけませんし。
戻るのでしたら、こちらへ。
[抱き寄せようと、腕を回す。]
うん。
[こくりと頷いて、大広間を目指して歩く。
握り締められている手。
涙が零れているから、前を見て歩けなくて。
続く言葉に。]
ばかぁ……。
[涙で濡れた袖は、もう涙を吸い取りきれなくて。*]
そうさね…そう…いた…
…に…る…
…の…の…が…きでな…
…って…ってるかい…
…の…を…きこむと…の…き…しい…が…えるんだが…
…も…れてずぅっと…いていたものだから…に…られてな…
…
[少しの時間ではありましたが、考えるような、言葉を選ぶような間が気にかかります。鞘の中で刀がキンと微動しました。
人の内にこそりと鬼は隠れて居るのですから。
芙蓉殿の言葉に返す言葉が見つかりません。
戻れないのも事実ですし、立てないのも事実なのです。]
……もど、る から、嗚呼、少し待て。縛る。
[抱き寄せられた身を緊張させ、制止の声を上げました。
髪を縛っていた水色の布を解くと膝上でぐと強く縛ります。
溢れ出た血は何れ程のものかは見えません。
幼子だった記憶を払います。
置いていかないでくれる事が嬉しいと、口元を上げました。]
―大広間―
[でんわ、の問いに返ってきた朧の声。
此処に居る筈の雷門からの返事も、あったかどうか耳向けながら――、
探すか、という朧の声に、うん、と頷き呟いた。]
ええ、確かに壁の方に、あったような――。
一先ず、手探りで、当たってみましょう。
[私は男の手から、右手だけを離し、左手で繋ぎ止めた。
握りしめられていた指先は今も少しだけ、痛くて、少しだけ、熱い。
小さく息を吐いて、それから、ゆっくりと壁際がある筈の方へと、一歩、一歩――。]
[僅かに鳴る刀。視界の遮られた、ふたりしかいない空間ではやけに耳につく。
それが、鬼の気を察知しての鳴りなのかまでは、感じられぬが。]
傷口、できるだけ覆っといてくださいね。
見えんとはいえ、うちが触れてしまったら大事になりますから。
[縛る間は、抱き寄せた身体は離さずとも、腕と足とは自由にしよう。
溢れる血。見えていたら苦い顔をしたのだろうが、幸か不幸か、目にすることはない。
準備が済むようなら再び強く抱き寄せ、肩に触れ。
あまり太ももの方に重みがかからないよう、膝の下に腕を差し入れて抱き上げよう。
右腕には、薬鞄をさげたままだ。
抱き歩くに少し当たるやもしれぬが、背に腹は代えられぬ。]
[大分手こずってから、漸く「それらしい」形に巡り合う。
ほ、と息を吐いたのも、束の間。]
ああ、――――。
[光ない中、勝手場に繋がる番号が、読めない。判らない。
それでも私は、如何にか適当にダイアルを回して――]
[ ジリリリリリィ………… ジリリリリリィ………… ]
[黙して、息を呑んで、応答を待つ。
私の目には見えている筈も無い。
その部屋は無人、二階の客室の一つでしかなかったのだと。
そして私の目には見えている筈も無い。
ベルを鳴らそうとしていたその部屋に、ふたりぶんの死が在ることなど。
世渡介の死も、―――しの、の死も。**]
[下ろした袴を捲り上げて、傷口を覆うようにと布を縛り直します。
人のすぐ傍でという気恥かしさはありましたが、闇であること、生きる事こそが供養だという気持ちの方が優っておりました。
痛みはしますが、唇を噛み締めて声を飲み込めば聞こえぬというものです。
抱え上げられる事など幼い時以来でしたので、
膝裏にある慣れぬ感触に暴れそうになる衝動を抑え、落ぬようにと芙蓉殿の胸に片頬を押し付けたのです。]
―→大広間―
[勝手場から芙蓉殿に抱えられて廊下に出ました。目を閉じれば紅衣の紋までもが鮮明に思い出されます。
遠くで雷鳴のようなベル音が鳴っておりました。夏の盛りの蝉のようにも聞こえます。
ジリリと懸命に鳴くように。
電話をかけているのは天宮殿でしょう。
遅い事やこの暗がりを心配してのこととは思いますが、勝手場で起きた事をどう説明すれば良いのかと思えば難しい表情になります。]
すてん…どぐらす…すてんど…ぐらす…
…
…やはり…は…でいらっしゃいます…
…はまた…つ…る…が…ました…
…
――そうして、大広間へ――
[辺りには、幾つか人の声もするようで。
この次第では仕方もないかと思いつつも、あまり衆目に晒したいものでもない。
けれど、傷を抱えた沙耶をもう一つ、暖炉のある今まで運ぶよりはと、此処で止まって。]
戸、閉まってそうなら、開けてもらえる?
[今は自分の手を使うことは叶わない。
沙耶か、もしくは他にいるものに、そう頼む**]
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