221 堕天の姦計
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― 十字架の丘 ―
[朱班の翼をすり抜け、ゆっくりと漂い離れながら、 視線でトレイルを縛めていた闇を解く。 傷より零れる雫は涙にも似て、]
―――……。
[逸らそうとする視線を、声が縛った。]
(5) 2013/05/16(Thu) 02時半頃
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私の我が儘だ。 許せ、トレイル。 [星天宿す瞳を見つめて、噛み締めるように告げた**]
(6) 2013/05/16(Thu) 02時半頃
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― 十字架の丘 ―
[永遠の薄闇をさすらう亡霊たちは、光を求め、光を憎む。 天使の放つ光は灯台のように、亡者どもをおびき寄せていた。]
………っ。
[群がる亡霊を斬り払い、舞い上がる天使。 光に裂かれたのが自分ででもあるかのように、 顔を歪め、胸を押さえて孤軍の戦いを見る。]
(13) 2013/05/16(Thu) 10時半頃
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[赦す、と掲げられた指が胸を抉る。 求めていた天がここにある。 罪を背負い、罪を贖う贖罪の羊。
一瞬でもそれを求めた自身を、 心から憎み、侮蔑した。
それではなにも変わらぬ。 先を争って折り重なり、闇雲に光へ手を伸ばす亡者どもと。]
(14) 2013/05/16(Thu) 10時半頃
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私は、おまえを求める。
[魂の手と、現実の手とを共にトレイルへ伸ばす。]
来い。トレイル。 天にも、魔にもおまえはくれてやらぬ。
おまえは、私のものだ。
(15) 2013/05/16(Thu) 10時半頃
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罪は我が背にあり。 おまえには譲らぬ。
[宣言と共に、纏う闇が燃えあがった。 冥い炎に炙られて、鎧が鮮やかに変化する。 赤熱した鋼の色は光吸い込む漆黒へと変じ、 一切の光を発しない闇の焔に灼かれ続ける炉と化す。]
(16) 2013/05/16(Thu) 10時半頃
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ただ私の側にあれ。 純粋なる魂のまま。
[燃え続ける焔がいくらか滴って、亡者の上に落ちる。 灼けつく闇に燃やし尽くされ、亡者はたちまちに消滅した。
手で払えば焔が伸び、天使に群がる亡霊を一掃する。 拓かれた道の前で、天使を、真っ直ぐに見つめた。]**
(17) 2013/05/16(Thu) 10時半頃
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[不意に触れてきた魂の"声"に、いぶかしげな表情を浮かべる。]
ケヴィン、か?
[もしや、闇に落ちたはずの彼の心に、 いまだ天使としての魂が残っていたというのか。
微かな可能性に思い至ったとき、 心に去来したのは痛みのような喜びと、憐憫。悔悟。]
(18) 2013/05/16(Thu) 13時半頃
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……天は、天使に完全を求める。
私は魔界にて、穢れを受けた。
―――― ゆえに、私は天に叛いたのだ。
[神は慈悲深く、すべてを赦される。 天使を見捨てることなど、ありはしない。
だから、叛いた。 天が間違うことなど、あってはならないことだから。]
(19) 2013/05/16(Thu) 13時半頃
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[さらに届く『副隊長』の"声"。 そこに、疑いを抱きはしなかった。
小さな違和感を感じはすれども、信頼が目を曇らせる。]
天が、穢れを得たと断じたこと、そのもの。
[天界に在りし時のように、内心を吐露する。 竜の前で閉ざした殻は、今は開かれてあった。]
天がそれを望むのであれば、私は堕ちねばならぬ。 神の、敵として。
[淡と響く"声"は、それでも痛みを押し隠す。]**
(20) 2013/05/16(Thu) 16時半頃
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[さらに繰り返される"副隊長"の声。
穢れを受けた。そう断じられる心当たりはある。 瘴気の壁を斬り払った時、 決して汚れ受け付けぬはずの体に、黒が染みた。
天の声は本当のものだった。 それを疑う理由はない。―――なかった。 こうして、指摘されるまでは。]
私が、だまされたと …
[傷ひとつない強固な信の、ほんの一箇所に穿たれた穴。 そんなことはない、と思いながらも、埋められない疑念。]
(22) 2013/05/16(Thu) 19時半頃
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[揺らぎ、無防備になった心に、 叫びのような"声"が、深く、激しく打ち込まれた。]
おまえ、たち―――
[堕ちたくなかったと、悲痛に響く声。 あなたさえ騙されなければと、非難し嘆く声。
心のどこかで、なにかが砕け落ちる音がした。]
(23) 2013/05/16(Thu) 19時半頃
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[あの時、自分が少しでも疑念を抱いていたら。 すぐに断じず、せめて副隊長に伝えていたら。 或いは、天へ問い返す手段を模索していたら。
一瞬の激情に囚われた自分の過ちではなかったか。 あの時自分は神への信仰を失ってしまったのではないのか。 悪魔の誘惑に屈し、神の手を見失い、 自分が全て引き受けるように見せかけて、 神に全ての責任を押し付けたのではないのか。
自分を保っていたものが足元から崩れていく。 全身を打ち据える衝撃に、声も出せず、その場に頽れた。]**
(24) 2013/05/16(Thu) 19時半頃
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[そう。結局自分は半端な存在だったのだ。 うちひしがれた心の底、自分を責める声が響く。
魔に落ちながら天に焦がれ 全ての罪をひとりで被った気になって。
天を裏切りながら天に尽くすふりをして、 魔に染まりながら孤高の存在であろうとした。
傲慢で、卑劣で、矮小なる存在。]
(55) 2013/05/16(Thu) 22時頃
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[消滅を、願うことなどできない。 それは、禁じられていることだから。
殺してくれと、頼むこともできない。 それは、罪を唆すことだから。
このまま深淵に沈み、狂ってしまえば。 あの全てを包み込む存在に、この身を委ねてしまえば。
―――そんな考えが心に忍び込んだ時、 抱き留める手の、求める声の強さに、意識が目覚める。]
(56) 2013/05/16(Thu) 22時頃
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―――トレイル。 ああ。…私は、進まねばならない。
私は罪を犯した。 天への罪ではなく、もっと―――。
[伏せられる目。それは、決意の色を持って上げられる。]
選択を促したものたちに、感謝を。
[重ねられた両手に、自身の手を被せる。 そうして、自身の心を解放した。
聞こえる限りの場所へ、届けと。]
(57) 2013/05/16(Thu) 22時頃
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皆、聞こえるだろうか。 私だ。―――ジェフェルだ。
まずは、皆に謝らねばならぬことがある。
今、おまえたちを魔界に惑わせ、 深淵に沈めた原因の多くは、私にある。 恨むもいい。非難するもいい。軽蔑するのもいい。 その権利は全て、おまえたちの上にある。
(58) 2013/05/16(Thu) 22時頃
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だが、一番謝らねばならないのは、 私が、おまえたちを見ていなかったことだ。
私の目は、天を、神のみを見ていた。 最も信頼し、助け合うべきおまえたちを見ずに、 ただ神のみを信じ、愛してきた。
私は、愚かだった。
(59) 2013/05/16(Thu) 22時頃
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もう遅い、と嗤ってくれて構わない。 いまさらのこと、と捨て置いてくれて構わない。
だが、私はおまえたちに伝える。
ケヴィン。ノックス。ミルフィ。パティエル。 ローズマリー。ヨーランダ。トレイル。そしてオスカー。
私はおまえたちを求め、愛する。 応えずともよい。 決して応えられずとも、 私はおまえたちを求め、愛し続ける。
今このときより、ジェフェルはジェファとなる。 それが、証だ。
(60) 2013/05/16(Thu) 22時頃
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―――そして、深淵なる竜。 クラリッサ。 私は、おまえも求める。
母なる深淵。父なる天。 今の私には、どちらもが必要だ。
受け入れずとも構わない。 ―――愛している。
(61) 2013/05/16(Thu) 22時頃
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[思いを告げ終えたとき、 堕天使の姿に、ひとつの変化が現れる。
不定形の闇蠢いてた翼が消失し、 新たに背より伸びたのは、暁の薄紅宿すエーテルの翼。
十字架の丘の空を背に映したように、 仄かな光を放っていた。]**
(62) 2013/05/16(Thu) 22時頃
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[立ち上がり、深淵より届く声を掴む。 その声が、副隊長のものか、ケヴィンのものなのか。 そんなことはもう、どうでもよかった。]
私は、この魔界に王国を作る。
[問いに対する答えは、断定。]
魔界に一片の秩序をもたらし、 私が愛し、求めるものを手元に集め留め置く場を。
この手の届く限りを求め、手に入れて、 力を蓄え、手が届く場所を増やし、
(68) 2013/05/16(Thu) 23時頃
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―――いずれは、深淵も、天界も この手に収めたい。
(69) 2013/05/16(Thu) 23時頃
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[皆に賛同されずとも、理解さえされなくてもよかった。 第7096小隊は既に存在せず、全員を貫く戒律もない。 この先、魔界に地歩を築くのならば、 反発するものなど、いくらもでてくるだろう。]
それでも、私は求め欲する。
[解き放たれた心のままに、愛することを。]
(77) 2013/05/16(Thu) 23時半頃
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パティエル。
[泉のほとりよりの声を、胸に抱く。]
私も、おまえの罪を背負うことも、救うことも、 できない、と思い知った。 私にできるのは、ただおまえを求めることのみだ。
おまえが、おまえの意志で私の元に来てくれるのならば、 それは、なにより嬉しい。
私が描く道に、おまえの道を書き加えてほしい。
(79) 2013/05/16(Thu) 23時半頃
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