〜 今はない小さな国のはなし:裏面 〜
[自分の左胸から生えた槍の穂先が何なのか、神聖騎士ケヴィンは最初、理解できなかった。
は、と息を吐いたはずの唇から、赤い物がこぼれおちる。
前からの攻撃において、ケヴィンは鉄壁だった。しかし、後ろからはそうではなかった]
[盾を取り落とし、よろめき崩れそうになった体を、今度は前からの一撃が縫いとめた。
……そうか、自分は地に伏すことさえ許されないのかと、ケヴィンは天を仰いだ]
[敵に背を向け、戦いから逃げたならば、うつ伏せに倒れる。 けれど、この背の向こうには守るべき人が居る。
だから戦い抜き、いつか仰向けに倒れるのだろ うと思っていた。 なのに]
[立ったまま、死ぬのか、とケヴィンは自嘲した。
それは、前にも後ろにも、
四方に敵がいて、
どこにも信じる者がなく、
誰にも必要とされていない者の、
……酷くみすぼらしい死に様だと、ケヴィンは思った]
(57) 2013/05/12(Sun) 10時半頃