16 魔界のミッドウィンター祭【R18】
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時は来た。村人達は集まり、互いの姿を確認する。
オスカーが無残な姿で発見された。
噂は現実だった。血塗られた定めに従う魔物“人狼”は、確かにこの中にいるのだ。
非力な人間が人狼に対抗するため、村人たちは一つのルールを定めた。投票により怪しい者を処刑していこうと。罪のない者を処刑してしまう事もあるだろうが、それも村のためにはやむを得ないと……。
現在の生存者は、ニール、ザーゴ、フェルゼ、ロゴスの4名。
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[後は一人でとの言葉に、青年は頷き、改めて一礼する。>>1:39]
『では、祭をお楽しみ下さい。』
[辞去の言葉を述べて青年は背を向けるが、何を思ったかふと振り返った。]
『そうそう。 秘密ですが、魔王様の肉球はとても柔らかいんですよ。』
[脈絡もなくそんなことを告げて、今度こそ去って行く。 あるいは、どこかに猫の気配を感じ取ったのかもしれない。**]
(0) 2021/12/18(Sat) 01時頃
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肉屋 ニールは、メモを貼った。
2021/12/18(Sat) 01時頃
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[去り際にかけられた言葉>>0に首を傾げる。 獅子の身体をしておられるから肉球はあるだろうが、なぜ私にそれを? そして従者に肉球をぷにぷにされる魔王の図を想像して、確かにこれは秘密にしなければならないと思った。]
……あ、すみません。こちらを預かっていただけますか? 貴重な魂が入っておりまして、食べたがる魔物もいるようなので、厳重にお願いしたいのですが。
[疑問点はひとまず置いておいて、当初の目的を果たそうと老人のような妖精に話しかける。 『寄越しな』と不機嫌そうな声と共に差し出された皺苦茶の手に、魂の入った瓶を渡した。*]
(1) 2021/12/18(Sat) 10時半頃
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[ここに至っても、天使はまだ噛みついて抵抗してくる。 痛手ではなかったので、気にせずそのまま運んでいった。
三つ足の疾駆と跳躍は、なおも速度を増す。 周囲の風景が流れるほどの速さに至って、最後の跳躍でふいと姿を消した。
空間を渡って消えた後には、数本の光る毛が舞うばかり。]
(2) 2021/12/18(Sat) 19時頃
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― 祭会場 ―
[既に熱気が最高潮に達している万魔殿の広場に、日輪の獣はふらりと姿を現した。 前夜祭のときよりも大柄な獣人の姿で、仕立ての良い衣服に身を包んでいる。 白い毛並みにダークグレーのジャケットと白のシャツは映えたが、肩から提げた袋が全体を異様なものに、ある意味では魔界の紳士らしく見せていた。
肩に斜めがけされている革袋は人間ひとりが余裕で入る大きさで、実際、袋の口から顔だけ出した状態で天使が詰め込まれていた。
持ち帰ったはいいものの、住み処に置いておくといろいな意味で危険そうなので、せっかくだから一緒に祭見物に連れてきたというところだ。
捕獲する時に負わせた傷は、天使がそれを許すなら、あるいは意思表示できない状態になっていたなら、手当されているはずだ。*]
(3) 2021/12/18(Sat) 19時頃
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― 祭会場 ―
[ その状態に陥るまで、天使がどれだけ抵抗したかは割愛する。 手当はおろか、手の届く範囲に近づくことも認めはしなかったが、彼のねぐらにいる間に、翼の再生はしないまでも、傷の悪化は止まっていた。
天使本来の治癒力が働いたのだ。 その意味を── しばし天使は思案するようであった。]
(4) 2021/12/18(Sat) 19時半頃
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[ そうして紆余曲折なり手練手管なり格闘なりがあって、天使は文字通り、手も足も出ない状態で魔界に運び込まれる。
深部に潜るにつれ、空気は混沌としてきた。
熱気、甘い匂い、血臭、呻き声、香辛料、切れ切れの音楽── そういったものが押し寄せてきて、瘴気さながらだ。
天使は目を瞑り、頭の中で聖句を繰り返す。*]
(5) 2021/12/18(Sat) 19時半頃
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[今は天使もおとなしくしているが、出かける前はそれはまあ大ごとだった。 遅れてきたのは、そんな理由もある。
飲んで騒いだり、遊興に耽る魔物たちの間を抜けていった。 中央に座す魔王の前に出て、昨晩の狩りやこの宴の盛況を喜んで挨拶の言葉とする。 魔王の前を退けば、あとは祭の空気を味わいにふらりと歩き出した。]
食べるか?
[豊富に並ぶ料理を摘まむついでに、天使に勧めてみたりもする。 血の滴るような肉――は拒否されることが明白だったので、スライスされて並んでいたリンゴでも。*]
(6) 2021/12/18(Sat) 22時半頃
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[ 運ばれた先で展開しているのは、想像すらしたこのない宴の有様だった。
そこかしこに天使の気配を感じるけれど、その相手は白骨のような枝に吊るされていたり、魔性と変わらぬ格好であったりして、意思の疎通を図ることができない。
群れの一部であった頃は、すべての情報が、すべての指令が、瞬時に行き渡ったものだ。 群れ全体が己が肉体と差異なく感じられた。 何をするにも迷いはなく、遠くまで力を及ぼすことができた。
けれど、今は、偉大なる組織力から切り離されてひとりだ。 自分がどうすべきかすらわからない。
ひどく小さく華奢になってしまった気分に苛まれる。]
(7) 2021/12/18(Sat) 23時半頃
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[ 礼服をまとった獣人は、森の散策でもするかのような足取りで会場を逍遥していた。
何の気まぐれか、果実らしきものを指先に摘んで勧めてきたりする。
消耗してはいたが、食事などしたくもない。 こんな場所では息をするのも苦しいくらいだ。
吊るされた天使たちが時折、光を放っているのは、少しでもこの場を清浄にしようという、かそけき努力に違いない。 五感を擦り減らすような刺激の中では、儚い光に過ぎなかったが。]
(8) 2021/12/18(Sat) 23時半頃
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[ そんな中、光る毛皮の獣人の体は、まだましと言えた。 太陽と大地と生命のエネルギーを感じるだけで、腐臭や呪詛めいた毒性のあるものはない。
彼の側にいるから、まだ息ができる──
獣人のねぐらでは、穢らわしさは覚えず、傷も塞がったというのに、何故、ここへ連れてきたのだと睨んでやる。
謎の多い獣人だが、先ほど、魔王と呼ばれる異形の前で、狩の成果や宴の賑わいを嘉する言葉を述べていたから、本来はこういう乱痴気騒ぎが好きなのだろうか。 度し難い。*]
(9) 2021/12/18(Sat) 23時半頃
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[天使はリンゴを食べなかったし、こちらを睨んでもきた。 それでも出かける前より、ずいぶんおとなしい。 具合が悪いのか、落ち込んでいるのか。 そういう覇気のなさだ。]
もう家に帰りたいのか?
[天使の頭に手を乗せ、撫でながら聞く。]
(10) 2021/12/19(Sun) 00時頃
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やはり魔界の空気は合わないか。 順応するとも聞いたが、徐々に慣らすべきだな。
ところで君は何を食べるのだね? 宴なら珍しいものも出る。 君の口に合うものもひとつふたつは見つかるかと思ったが、食欲はないのかね。
[宴に来た目的はいくつかあったが、ひとつはそれだった。 あとは天使を飼っている他の魔物から話を聞きたくもあったし、純粋に久しぶりの宴を楽しみたかったからでもある。*]
(11) 2021/12/19(Sun) 00時頃
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[ 頭を撫でる手を振り払おうと首を振る。
こんな半人前扱いをしながらいう”家”とは天の揶揄だろうと思ったけれど、よくよく考えてみれば、獣人は自分のねぐらを指してそう言ったのかもしれない。
片翼を失った今は天に帰るべくもないし、獣人のねぐらだって、この宴会場よりましというだけで帰りたい場所になるはずがないものを。]
(12) 2021/12/19(Sun) 00時半頃
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[ 知性と関心を伺わせる獣人の問いかけは無視した。
魔性のものと会話してはいけない。 彼らはすべからく相手を誑かそうとして言葉を操るものだと、天使は教育されている。
話す気はないのだとわからしめるために、毅然と顔を背けて、さりげなく鼻先を彼の毛皮に埋めた。 光宿す被毛をフィルター代わりにすれば、いくらか呼吸も楽になるかと目論んでいた。 魔界の空気に慣らされてなどたまるものか。
力を回復できれば、いつか反撃の機会もあろう。 今は雌伏の時だと自分に言い聞かせる。*]
(13) 2021/12/19(Sun) 01時頃
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[天使は相変わらずの無言だった。 あるいは、口が利けないのかもしれない。 そっぽを向いたかと思うと、毛皮に顔を埋めてくる。
撫でる手は嫌がられたが、押しつけられた頭をもう一度撫で回してやった。]
そんなに私の毛皮が好きなのか。 それとも寒いかね。
あまり辛いのは可哀想だからね。 用事を済ませたら、早めに帰るとしよう。
[革袋を自分の体にぴたりと沿うように抱え直す。 支える腕を回したまま、広場を歩き始めた。]
(14) 2021/12/19(Sun) 10時頃
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[目当ての相手はすぐに見つかった。 天使を何羽も飼ったことがあるという魔物だ。 虹色に輝く長虫といった姿の相手は、今も天使を侍らせて食卓にしていた。
他愛もない挨拶に続いて天使の飼い方の注意点や、天使の性質、個体差など有意義な話をいくつも聞く。 会話は全て思念で行われたから、端から見れば黙ったままひとしきり酒を酌み交わしているだけに見えたことだろう。
最後に、いくつかの物品をもらい、対価の宝石を渡して会話を終了する。 光を封じた宝石は、手渡す間も仄かに光っていた。]
(15) 2021/12/19(Sun) 10時頃
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では帰ろうか。
[革袋の天使に話しかけ、広場の出口へと歩き出す。 祭もいいが、今は別のことも良い。]
結局君はなにも口にしなかったが、 君は食物を摂らずに、日光浴をする天使なのかね。
帰ったら、いろいろ試させてもらうよ。
[そんな言葉を掛ける間にも、天使の頭に手を置いて触感を楽しんでいた。*]
(16) 2021/12/19(Sun) 10時頃
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[ 獣人の掌が執拗に頭に触れてくる。
かけてくる言葉は気遣いを含む柔らかなものだったが、いつでも首を捻ることができるという優越感の発露かもしれないと思えば、苛立たしい。
あまつさえ毛皮が好きなのかと、よく観察していると思わざるを得ない指摘をされ(どうしてそうしなければならないかは推察しないくせに ! )、意固地になって顔を離す。 とたんに咽せ返るような空気包まれて、眩暈を覚えた。
会話を交わさずとも、魔性の言葉に反応するだけで害はあるのだと反省する。]
(17) 2021/12/19(Sun) 17時頃
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[ しばらく歩き回っていた獣人は、知己らしき魔性の前で立ち止まった。
泥に浮かぶ油の光彩にも似た肌を持つ幼虫めいた魔性だ。 天使の感性からすれば、その姿はおぞましい。
まして屈服させた天使を食卓代わりに据えているなど、性根も醜いに違いなかった。
光を送って共鳴を試みるが、翼が皮袋に包まれてしまっているせいか、それとも相手にもう力が残っていないのか、虜囚天使からの反応はない。
ここが戦場であれば、こんな悲惨な目にあう前に光へと還元してやらねばならないと、迷いもなく槍で貫いたはずだ。 けれど、もはや、天は執行を命じないだろう。
すでに魔が触れたものへ、許しが与えられるべくもないのだ。
暗澹たる気持ちになり、眉を顰める。]
(18) 2021/12/19(Sun) 17時頃
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[ その時、食卓代わりされている天使が、わずかに口を開いた。 ハミングのような、かすかな”声”が発せられる。
── その獣人は初めてのようだ。幸運を祈る。
詳細を問う前に、用を済ませたらしい獣人が踵を返したので、かつての同朋との邂逅はそれきりになった。
もう帰るという宣言には正直、ほっとしたが、その場限りの安堵になるだろうことは、予想に難くない。 帰ってからも獣人が天使を放り出すあてはなさそうだった。
宴で良からぬ知見を得たか、獣人は天使に対し、いろいろ試すなどと画策している。 ”初めて”であれば、そこに隙もあろうか。
天使は天使で、魔を利さないことを今の最善と決めていた。*]
(19) 2021/12/19(Sun) 17時頃
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[目的を達して、満足して宴の場を去る。 魔王への挨拶は省略しても構わないだろう。 遠目にも存在感際立つかの王は、今もお楽しみのようだ。
そのまま帰る予定だったが、案内板を見て予定を変えた。]
浴場があるそうだ。寄っていくとしようか。 我が家には水場しかないのでな。
[足の向きを変えて建物内に入る。 厚い石壁に隔てられて、祭の喧噪が遠のいていった。]
(20) 2021/12/19(Sun) 21時半頃
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― 浴場 ―
[浴場と名付けられたそこは、正確にはいくつもの浴室が集まる場所だった。 浴室で楽しむ者たちもいるのだろう。 微かな嬌声が漏れ聞こえてくるが、気にするほどではない。
並ぶドアの表示を見ながら1つを選び、中に入る。 ドアに掛けられた案内には、スライムの湯と書かれていた。*]
(21) 2021/12/19(Sun) 21時半頃
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[浴室内の空気は温かく、湿気を含んでいた。 三・四人は入れそうな浴槽には、透明な液体が満ちている。
天使の革袋を床に下ろすと、まずは自分の服を脱ぎ始めた。*]
(-0) 2021/12/19(Sun) 21時半頃
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[ 帰ると言ったのに、獣人は不意に気を変えたらしい。 魔性の言葉に信用が置けないことは、この例からも明らかだ。
こんな場所からは一刻も早く遠ざかりたいものを。
しかも、行こうとしている場所が浴場だと告げられ、ロクなことにならないだろうと予感して天使は唇を引き結ぶ。]
(22) 2021/12/19(Sun) 22時半頃
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[ 天界にも強く集中した光が照射されるシャワーめいた設備はある。 地上勤務から戻った後などに、全身を浄めるのに使っていた。 その光に比べれば、陽光などランタンの中の灯火のようなものだ。
だが、魔界の浴室にどんな効果が期待できるというのだろう。 むしろ、獣人のねぐらでは塞がった翼の傷に、悪いものが入り込みはしないかと、天使は案じた。
翻意を促すべく、革袋の中から膝で蹴り押してみるが、主張が取り入れられることはなかった。*]
(23) 2021/12/19(Sun) 22時半頃
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― 浴場 ―
[ 他にも利用者がいる気配があって、壁にくぐもった声が反響している。 断末魔に近いような喘ぎ声もあって、聞くだけで神経がささくれだった。
実際、何が起きているのかは見えない。 並んだドアのどれかの奥の出来事だ。
すべてを共有する天使の群れの中ではプライバシーなどという配慮はなかったため、浴室がいくつもあるのは不可解だった。 人目を隠れて良からぬことをするためなのは間違いなさそうだ。]
(-1) 2021/12/19(Sun) 22時半頃
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[ 獣人は未使用の浴室を見つけて入り、後ろ手に扉を閉める。
個室の中の、湿気をはらんだ温度は心地よいものではない。 天使の好みは、明るく澄んだ空気だ。
拘束されたままの状態で床に下ろされ、獣人が衣類を脱ぐのを見る。 相手が丸腰であっても、強敵であることはすでに確認済みだ。
でも、体毛を濡らすのは、気持ち悪くないのだろうか ? * ]
(-2) 2021/12/19(Sun) 23時頃
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[衣服を全て脱いで手早く畳み、作り付けの棚に上げる。 同じ棚に瓶がいくつか並んでいるのに目を留めた。]
入浴剤? ほう。
[ざっと読んだ説明書きに、体をより温めると書かれている。 その他の効用も見比べた上で1つ選び、浴槽に注いだ。 湯の代わりに満ちている透明なスライムが、さっと薄い茜色に染まる。]
(-3) 2021/12/19(Sun) 23時半頃
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[用意が済めば、天使の側へ戻った。]
ずっと袋の中で窮屈だっただろう。 今出すから、暴れてくれるな。
[声を掛けながら背中の側から袋ごと抱き上げ、袋の口を締めていた紐を緩めて抜き取る。 広げた口から片腕を入れて、脇の下から抱え上げるように天使を袋から引っ張り出す。 後は背後から抱えて湯船に向かえばいい。
どの段階であれ、暴れ出したら即座に床に押しつけて動きを制する構えだった。*]
(-4) 2021/12/19(Sun) 23時半頃
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[ 獣人が手際よく脱いだものを畳むのを見て、意外に思う。 とはいえ、彼のねぐらも小綺麗に整頓されていたから、よそゆきの振る舞いというのでもないのだろう。
勝手にひとりで沐浴してくれて構わなかったのだが、獣人はやはり、放っておいてくれなかった。 暴れてくれるなと声をかけてくるが、頼めば通るというものではない。 そもそも、誰のせいで窮屈な目にあわされていると思っている。
入浴剤だという薬めいたものまで投入された湯に浸けられるのはごめんだった。 全力で抵抗しておく。* ]
(-5) 2021/12/20(Mon) 00時頃
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[袋から出す途中で、予想通りに天使は暴れ出す。 上半身を引き出したところで床に押さえ込み、袋の紐で後ろ手に拘束した。 足もまた別の紐で括って動かなくする。 翼は仕方ないので、欠けている側から横抱きに抱き上げた。]
生きが良いのは結構だが、湯船で激しく動くとのぼせることになる。 少しは力を抜くと良い。
[大きな魚を抱えている気分で浴槽の縁をまたぐ。 足先を入れた部分から、茜色の湯がさざめいた。]
(-6) 2021/12/20(Mon) 00時半頃
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[ここで使われているスライムはさすがに質がいい。 入浴剤の影響か、ほどよく発熱しながら体に纏わり付いてくる。 長い毛の奥まで入り込んで、汚れを掻き出すようだった。 肌に加わる圧も、揉まれているようで具合がいい。
天使を抱えたまま腰を下ろし、全身で湯を堪能する。*]
(-7) 2021/12/20(Mon) 00時半頃
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[ ある意味、根気強いほどに、獣人は天使の世話を焼こうとする。 その手法は最終的には力づくなるのだったが。
改めて手足を縛り上げられて、天使は、唯一、束縛されていない翼で獣人を打ち据える。 その羽の先が、粘り気のある液体に触れた。
濡れた、というだけでない、生暖かで動きのある質量が羽の根元へと這い上がってくる。]
(-8) 2021/12/20(Mon) 01時半頃
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[ これは温めた水などではない !
天使は警戒するように体を竦ませた。 この瞬間に限り、四肢が縛られていたのは幸運だったかもしれない。 自由であれば、驚いて反射的に獣人に縋っていたかもしれないから。
少なくとも、支えにはなりそうな獣人の腕の中で体を上擦らせようとしたが、獣人は天使を抱えたまま、おかまいなしに腰を落とす。
弾力ともつかない流動的な液体に包み込まれ、天使は嫌悪感を顕わにした。
巨大な生き物の内臓に呑まれたら、こんな風だろうかと想像させるような感触だ。*]
(-9) 2021/12/20(Mon) 01時半頃
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[湯に驚いたのか、天使が体を硬くする。 さらに沈めれば、嫌がるように全身をくねらせた。]
慣れないか。であろうなあ。 慣れれば乙なものだぞ。
[こちらはもはや手慣れた風で天使の動きを制し、背中側から支えるように抱いて湯船に体を伸ばす。 その姿勢ならば、天使の姿がよく眺められた。]
(-10) 2021/12/20(Mon) 09時半頃
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[連れ帰った時に怪我を診ようと身につけているものを剥いだあとは、衣服など与えていない。 寒そうな様子は見せなかったし、暴れるので服を着せるどころではなかった。 落ち着いて観察するのもこれが初めてだ。
改めて見れば、天使の体が如何に滑らかで、滑らかすぎるかが分かる。 余分なものが何一つ付いていない体を手で撫でた。]
天使は翼の付け根が敏感だと聞いたが、 君はどうかね。
[背中にも手を差し入れて、無事な方の翼を弄る。 羽根の間までスライムが入り込んでいるから、今は少し膨らんで見えた。*]
(-11) 2021/12/20(Mon) 09時半頃
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[ 獣人はすっかり寛いだ様子で話しかけてくるが、同調する義理はない。 じっとしていれば、這い上がってくる粘液が引いていくというわけでもないのだから。
あまつさえ、獣人は手を動かし、天使の体に触れてくる。 格闘とは異なる方法で。
痛めつけるつもりがないのは察せられたが、探るような動きは剣呑だ。 殊に翼の付け根について質問された。 誰からの情報だか知らないけれど、空中での移動の要である翼が、鋭敏に反応することは機能的に当然のこと。
天使の弱点を探り、また狩に出た際に役立てるつもりかと推察し、睨んで、離せと身じろぐだけで、答えを与えないよう努める。 ]
(-12) 2021/12/20(Mon) 12時頃
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[ 今、失われた片翼の付け根は、じわりと熱を帯びていた。 粘液に混ぜ込まれた薬のせいだろうか。
残された翼が、茜色に染まってみえるのも穢らわしい。 翼の隙間に侵入してくる粘液も獣人の指も、翼を扼する重たい枷のようである。
知らず、呼吸が浅く早くなり、その分、魔界の空気を取り込んでしまうのか、頭の芯が痺れたようになってくる。
これでは身を清めるどころか、体力を奪われだけだ。 一矢報いねばならないというのに。*]
(-13) 2021/12/20(Mon) 12時頃
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[翼を撫でれば睨まれたし、振り払うような動きもされた。 こちらからの働きかけに拒否の反応を示すのはこれまで通りだが、他の部位よりも拒絶が激しいような気がする。 もう少し触っていれば分かるかと、さらに探訪した。 背中側だけではなく内側からも触れ、羽根の間に指を潜り込ませてみる。
そうしている内に天使の息が浅く乱れ始めた。 心なしか、頬が上気しているようにも見える。]
湯にのぼせたか? これほど動けば当然か。
少しは落ち着くといい。 無駄に体力を削っても良いことはないぞ。
[翼と肌を撫でながら忠告する。]
(-14) 2021/12/20(Mon) 17時半頃
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[先ほど浴槽に注いだ入浴剤には、体を温める成分以外に、ごくごく弱い麻痺の成分が含まれている。 自分にはほとんど効かないのだが、体から強ばりを抜いて、芯からリラックスできるという効能が謳われていた。
天使にどれほど効果があるかは知らないが、すこし力を抜くのも良いだろうと思う。*]
(-15) 2021/12/20(Mon) 17時半頃
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[ 熱が体に蓄積して、気怠い。 頭を上げておこうとするのさえ辛くなり、知らず、獣人にもたれかかる格好になる。
獣人は親切めいて忠告してくるが、魔性の言葉を真に受けても、いい結果にならないというのは先ほど、学習したところだ。
そもそも、彼がここへ連れ込んだ元凶であるのに加え、体のあちこちを無遠慮に撫でたり押したりするから、天使としては自己防衛せざるを得ない。 あくまでも、防御反応としての身じろぎである、これは。]
(-16) 2021/12/20(Mon) 18時半頃
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[ とはいえ、どれだけ正論を述べても、魔性は揚げ足をとってくるだろう。 だから、天使は獣人の策中にはまらないよう、天使の本分を見つめ直して、声にする。
主の御技を讃える歌を。
執行天使の歌声は、その任務の苛烈さと裏腹に、声変わり前の少年めいた澄んだ音色をしている。 囁くような大きさであったし、人間の耳には聞こえない音域も混じっていた。
結果として、獣人がいうように、暴れる代わりに瞑想めいた落ち着きの中へ逃避する。*]
(-17) 2021/12/20(Mon) 18時半頃
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[忠告を聞いたかどうかはわからないが、天使は暴れるのを止めた。 代わりに細い声で歌い出す。
天使の歌といえば、神を讃える歌だろう。 魔物の中には忌避するものもいるが、自分は気にならない側だ。 ともかくも、ようやく訪れた穏やかな時間を、湯の中で堪能する。]
(-18) 2021/12/20(Mon) 20時頃
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[しばらく湯に浸かっていれば、体はすっかり温まった。 そろそろ頃合いかと、天使ともども浴槽から出る。 毛皮に潜り込んでいたスライムは勝手に浴槽に戻っていくから、本物の湯と違って乾かす手間がないのが一番の利点だ。]
温まったか?
[声を掛けて、天使はもう一度革袋に収納する。 手足の紐を解くのはそのあとだ。]
(-19) 2021/12/20(Mon) 20時頃
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では、改めて帰るとするか。
[革袋の中へ自分の服も一緒に詰め、背負い直して獣身となる。 多少距離が有るから、この姿の方が早い。
浴室を離れ、建物から出て、万魔殿の門を潜る。 そのあとは四つ足で駆けていき、やがて空間を跳んだ。*]
(-20) 2021/12/20(Mon) 20時頃
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[ 獣人は歌うのを止めろとは言わなかった。 聞き入っているという風でもないが、邪魔をしないだけでも驚きだ。
やがて、歌に飽きたか湯に飽きたかして獣人は風呂を出る。 肌にまとわりついていた粘液は引き剥がすまでもなく落ちたので助かった。 寄り集まって浴槽に流れ戻ってゆく様子を見ていると、どこか生き物めいている。 こんなものを喜ぶ者の気が知れない。
獣人が再び服を着るタイミングで隙ができるだろうかと見守っていたけれど、先に革袋に押し込まれた。 これだけ抵抗を続けていれば、彼も警戒するのだろう。 良し悪しだった。
皮袋には、彼の礼服も入れられたから、完全に荷物扱いというところ。]
(-21) 2021/12/20(Mon) 22時頃
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[ 獣人は、返事をしない天使にいちいち話しかけてくる。
料理の材料にされるわけでもなく、手柄として自慢されるわけでもなく、殷賑を極める魔宴を見物させられたわけだが、何の目的で連れてこられたのかと天使は訝しむ。
目を離すと逃げるから、というのが単純な理由かもしれないが。
獣人自身は乱痴気騒ぎに加わらなかったのは、天使を抱えていたせいだろうか。 それとも、魔性の中でも特異な性質なのか。
彼自身に関心が向きかけるのを自覚して天使は躊躇う。
いや、隙を狙うにも観察は必要だ。 これほど滑らかに変身を行う魔性の相手をするのは、きっと難しく── それだけの価値はあるはず。*]
(-22) 2021/12/20(Mon) 22時頃
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[瓶と引き換えに番号札を受け取ってから、クロークルームの中を見回す。ちょこまかと働いている小人達を見て、働き口を探している仲間がいないか尋ねようかと思った。]
…………。
[しかし何となく口に出す気になれなくて、その場を後にした。]
(24) 2021/12/20(Mon) 23時頃
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━祭会場━
[死神は、激しい喧騒に満ちた宴の場まで戻ってきた。目の届く範囲に知り合いもいないようだし、まずは食を楽しむことにした。
魔界の虫が巣食うチーズをパクリと食べ、口の中で虫達がバチバチ跳ねている所に真っ赤な果実酒を流し込み、喉の奥で弾ける感触を楽しむ。 串焼きは血の滴る新鮮さで、血の汁を吸いながら頬張る。非常に柔らかく濃厚で、いくらでも酒が飲めそうだ。]
(25) 2021/12/20(Mon) 23時頃
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美味いな……。
[思わず声が漏れたが、賑やかな会場の中でそれを聞き取る者はいない。 ヨルがいた時なら、ひとつひとつ料理の説明をしてやりながら同じものを食べ、感想を言い合ったものだったが。]
──そう、あの子は虫は食べなかったな。
[嫌な記憶を思い出すのだと言っていた。ならば仕方ないかと虫を使った料理は避けていたから、そういえば随分久しぶりにこのチーズを食べた。]
こんなに美味しいのに。
[そう。ヨルが知らないことも見たことがないものま、まだまだいくらでもあった。それでも、家の中しか知らなかった元猫にとって、『もう十分』になったらしい。ある日突然『そろそろ飽きたので冥府とやらに行きます』と言い出した。]
これだから猫は駄目なんだ。
[その日から何度も口にしてきた愚痴を呟いた時、ある二人組が目に入った。]
(26) 2021/12/20(Mon) 23時頃
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[いや、二人組という表現は適切ではないかもしれない。一人と所持品だろうか? それは大柄な獣人と、袋に詰め込まれた天使で。>>3 今会場に来たように見えたので、ツリーから降ろしたのではなく、自身で捕獲したのだろうか。あの状態ということは、もちろん合意ではないのだろう。ああいった振る舞いは、フェルゼは好まなかった。
ああでも、]
(27) 2021/12/20(Mon) 23時頃
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いっそ首輪でもつけて、繋いでおけば良かったのかもしれないな……。
(28) 2021/12/20(Mon) 23時頃
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フェルゼは、そう呟いて目を伏せた。*
2021/12/20(Mon) 23時頃
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