31 私を■したあなたたちへ
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降りてみます?
[ 煙崎灰羅に尋ねながら、 卯木は階段へと足を進める。 制止されれば、一旦降りるのを止めただろうが、 特にそういったことがなければ、 そのまま階段を降りきるだろう。 ]*
(90) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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―― むかしむかし ――
密星偲風が、祖母という人の元に 引き取られたのは生まれて間もなくのこと。 両親だった男と女の事故死によって。
元々養子として他家へ引き取られていた父だ。 その家の長男には既に後継もいて 血の繋がらない女児を家に置いたところで 利も少ないと見做されたのだろう。 息子だった男の死を知った祖母が引受を申し出るや 赤子の私は渋られることもなく返されたらしい。
誇り高く厳しい祖母だった。 礼儀作法に指先の所作ひとつを教え込まれ、 椅子から立ち上がる時の両足の立ち位置は 数センチの誤差を正されることもある。 お説教の決まり文句は『密星の娘であれば』……、 口を開けば 『家名を汚してはなりません』と続く。
(91) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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家名、とは大げさなものだ。 密星という家は、昔に遡れば確かに、 旧家と呼ばれた家ではあるのだけれども 実はとうの昔に無くなっている。
団栗の背比べよりも ほんの少しだけ頭抜けていたために 当主が欲を出して潰れた家、その典型だった。 齢二十だった、当時まだ年若い祖母が 立ち行かなくなった家を継ぎ 手を尽くし細々と家を守りその地に在り続けたために 苗字だけ今に残っているというだけの。
損失の抵当として縁ある品々が持ち去られても。 たった二歳の一人息子を他家の養子に手放しても。 ひとり、またひとりと住み込みの手伝人が家を去り 広いばかりの家にひとりきりになっても。 なけなしの遺産によって衣食住だけは何とか 体裁を保っているようなうらぶれた有様でも、 土地と旧宅を売り払うことはなく。
(92) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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そんな彼女が晩年に心血注いだのが孫の教育だった。 学校こそ通えたけれど、お友達はごく狭い範囲だけ 授業が終われば即帰宅、家庭教師が付ききりの生活。
外遊びなど以ての外、家にお招きしなさいと言われても 陰気な屋敷に誰を呼べるというのだろう。 薄暗い部屋を心許ない灯りが照らす がらんどうの空間に? 自然、おともだちとも距離を置いた。
家では常に、仕立ては良いがひどく型の古い 祖母の若い頃のワンピースを纏い 腰まで伸ばした絹髪には寝癖一つ許されない。
習い事といえば音楽、生け花、茶の湯、舞踊―― 彼女の言うところの『必要な教養』として 挙げられていたこれらは当然、 金銭事情で一つも叶うことはなくて 密かに安堵したことを、時折思い出す。
(93) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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最低限の生活を送るための寝台と机。 身形を整える鏡台だけの部屋。 叩き割れない天窓の硝子。 幼いこどもがベッドに置くようなぬいぐるみも 飴玉や宝石のようにきらめくヘアゴムやピン止めも。 流行の雑誌も、娯楽漫画でさえも 私には無縁の、遠い世界のもの。
――― 真綿で首を絞めるような ゆるやかな軟禁の日々。
時代錯誤甚だしい、歪んだ教育は幾度となく 口さがない近隣の話題に上ったらしいが なにかがおかしいと気付くことは出来ても 説得する、逃げ出すことの出来るだけの土壌が 私には長らく与えられなかった。 無力な子供だったのだ。
(94) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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いまや平均的な家庭にも満たない生活なのに 令嬢然として振舞うことを強いられる滑稽さ。 彼女の抱くものはもはや誇りではなく 手放せない過去への執着だ。
外側ばかりを取り繕いながら あなたのためにと繰り返しながら 本質は自分のために “お人形遊び” に興じる祖母の元で、
四角く切り取られた空をただひとり見上げ よく、命の意味を考えた。
――― 祖母の死によって、 操り人形の糸が離される 十八の秋まで、それは続いた。
(95) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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恰も令嬢の如く 『与えて与えぬ教育』 を 孫の私に施そうとしたその心は。 酔狂なのか、正気ではなかったのか―― 根源は、人生を繁栄と凋落に翻弄された 彼女の鬱屈だろうと、幼き頃の私は理解する。
厳格な祖母だったけれど。 彼女への情はあった。 それは恐らく、家族愛と呼べるようなものではなくて 同情にすぎないものではあったけれど。
(-15) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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彼女は恐らく―― “斯く在りたかった” “在れなかった” 自分を 幼き頃の自分に似た、私という器に再現しようとしたのだ。 作り上げた作品をショーケースに収め、 永劫眺めておきたかったのだろう。 喪われた過去を夢描く眼差しで、 密星の家紋と家系図を抱き締めて、 わたしを 見詰めて。
かわいそうなおばあさま。 せめて、あなたが生きている間だけは あなたの望む わたし で居てさしあげますから。
[それが仮令、紛い物にすぎなくとも]
私 が 消えてしまう前に
* どうか “ ” *
(-16) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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[好きに生きていい などと、今際の言で言われても。 ただひとり放り出されたようなもので。
逃げ出して、それでも何とか世界にしがみついて そして幾年も時は巡り。 私は縁あって高校の保健室を仕事場にしている。 あの頃に比べたら、よほど心穏やかな日々。
走っても、笑い声を出しても、いいのだ。 髪に鋏を入れても、好きな服を着ても。 今しかない時間を楽しく生きてと、
春を謳歌する少年少女たちの輝きに微笑みながら、 時折、あの季節に置いて来てしまった十八歳の私を想う。**]
(96) 2023/11/19(Sun) 14時頃
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― 前日/観覧車 ―
[受付ロボットにアポロで手続きをして、観覧車に乗り込む。 綺羅さんが選んだのは、紫色の空に黄色い星が散りばめられているゴンドラで。
ゴンドラの動きは、ゆっくりではあるのだけれど、動いているものに乗り込むのは初めてだったから、 タイミングを測る間に行ってしまうのではと、少し焦りながらも勢いをつけて、なんとか乗り込んだ。]
[ゴンドラの外の景色、今まで見上げていた建物を、見下ろす形になって。 でも、まだ登り始めたところだったから、一番高い所>>15を想像して、そうですねって小さく頷いた。]
わわっ。
[ゴンドラが傾くと、目を丸くしたけれど。 綺羅さんが座り直すと、また、外の景色を眺めていて。 ふいに、問われた言葉>>16に。]
(97) 2023/11/19(Sun) 14時半頃
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……犯人の事を怖いと思うのは、 傷つけられたり、 殺されたりするかもしれないから、ですよね? あとは、犯人に仕立て上げられたり、騙されたり?
でも、私はどうなっても構わないから、 誰も怖くない、かな。
[そんな風に、答えた。**]
(98) 2023/11/19(Sun) 14時半頃
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――銀の館→地下
そりゃ降りるだろうよ。
[>>90 卯木の問いには一も二もなく頷いて。 空気の匂いだったり物音だったり、 一応は気にする素振りを見せはしたが、 目に見えた危険はないだろうと踏んでいた。 階段を降りきれば、人感センサーでライトが灯る。 そこには、馴染みのある造りの研究所施設が 残っていたことだろう。]
(99) 2023/11/19(Sun) 14時半頃
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それで、話の途中だったな、 ……俺が犯人ではないとすると、
そうだな、大切な妹が急死して、 妹の名を騙った手紙とともに、 突然、実は殺されたのだと告げられて、 容疑者のひとりに上がっている……と。
勿論、驚いちゃいるし、判らんことだらけさ。 しかし今は何といっても、真相を、 犯人を見つけ出さんことにはな。
アンタ、マスター、心当たりはあるか?
(100) 2023/11/19(Sun) 14時半頃
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[地上階のプラネタリウムよりも明るい室内では 表情も視認できる。 己の声には今も困惑や怒りといった感情は 乗っていないだろう。 軽忽な口ぶりは、卯木の疑念を晴らすものでは ないように思われたが。
それでも、昨日と然程変わらぬ様子で。*]
(101) 2023/11/19(Sun) 14時半頃
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― 2日目/朝 ―
[観覧車を降りた後は、綺羅さんとホテルまで一緒に歩いて、ロビーで分かれた。>>63]
[割り当てられた部屋で睡眠を取って。 朝、目を覚まして身支度をすると、食事は摂らずに遊園地の園内へ足を運んだ。**]
(102) 2023/11/19(Sun) 14時半頃
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──前日・観覧車──
[>>98自分はどうなっても構わないから、誰も怖くない。という答えは、これまでの彼女を見ていたら、半ば予想は出来ていたものだったけど。 ”そっかー。”とだけ呟いた後、しばし黙って、ゴンドラの外を見た。
園内を見下ろせば、宇宙を模した夜景はとても綺麗で、夜空にも満点の星。 観覧車とプラネタリウムを兼ねたような、贅沢な空間が出来上がっていた。
天辺まで上り切った時だろうか。 不意に、花火が上がる。 否、花火の動きをプログラミングされた、ドローンだった。]
わー、見て。きれい……
[花火の音がけたたましく鳴り響いた時に、 音に紛れて、小さな声で、ぽつり、と。]
(103) 2023/11/19(Sun) 14時半頃
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―― 2日目:ホテル605号室 ―
… 朝………
[アラームをかけるのも忘れて寝入ってしまったために 目覚めは何時もの時間よりも1時間遅かった。 自宅の小ぢんまりとしたマンションとは勝手が違ううえに ベッドがふかふかすぎて、知らない間に また寝直してしまったのかも知れない。
いくらふかふかでも、もう起きなければいけない。 仕事のない休日祝日に、観光ではなくただ寝るため 身体を癒すためだけに他所に泊るというのが ピンと来なくて長年不思議に思っていたのだけれど 今、やっと、その必要性を理解した気分。]
(104) 2023/11/19(Sun) 14時半頃
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────ごめん、犯人は、僕。
[呟いたけど、おそらく、雛子には聞こえなかっただろう。]
(105) 2023/11/19(Sun) 14時半頃
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/* ランダム振ったら結構高層に!?
(-17) 2023/11/19(Sun) 14時半頃
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[やがてゆっくりと降下する観覧車の中、会話は途切れて、黙って景色を見ていたけど、居心地の悪さは無かっただろう。 一番下に辿り着いて、雛子に手を貸しながらゴンドラを降りる。]
お腹もすいたし、ホテルに行って、ご飯食べよっか。 今日は出られそうもないし……。
[そうして、マップを見ながらホテルに辿り着いて。晩ご飯を食べた後は、部屋を別々に取って、そこで解散するだろう。]
観覧車付き合ってくれてありがと。楽しかった。 おやすみ。
[笑顔で手を振った。]**
(106) 2023/11/19(Sun) 14時半頃
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[寝台を降りて、身支度を整える。 アポロが淡く光り着信を示していたから、 まだ眠い目をしぱしぱしながら起動する。 返信にはすこし、考えつつ]
(107) 2023/11/19(Sun) 15時頃
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(煙崎さんへ個別送信)
おはようございます。 こちらこそ、昨日はありがとうございました。 私はあれから、坂理くんと中村さんにお会いしました。 坂理くんは、るくあさんとの関係性もあって (きっとご存じですよね)その線も見ていたのですが お話をしてみて、まず犯人ではないと感じました。 根っこがとても真面目な良い子なのだな、と。
中村さんは深くお話をしたわけではないのですが るくあさんのことで、何だか 思うところがあるご様子に見えました。 でも、感じの良い方だったので、対話はしやすい方かなって。
(*11) 2023/11/19(Sun) 15時頃
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これって、あなたがもうお二人に会っていたら あまり重要ではない情報になってしまいますね。
そちらは、何か見つかりましたか?
……
(*12) 2023/11/19(Sun) 15時頃
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[その次の文章は、数文字入力して消した。 文字ではどうしても淡々とした印象になり 表現するのは難しいと感じて。
指をアポロ上で彷徨わせたものの、 ひとまず、そのまま送信を行う。]
(108) 2023/11/19(Sun) 15時頃
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[もう一つ届いていた全体メッセージは、 私はまだ出会っていない、しかし自己紹介での 印象強い人物からのものだった。 時間帯は夜だから、個人あてのメッセージよりも 先に届いていたのだろう。
大切なものを紛失してしまったらしい。 メッセージの主の動揺が伝わるような文面に 心配になって僅かに眉が下がった。]
(109) 2023/11/19(Sun) 15時頃
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(キャンディさんへ個別送信)
はじめまして、密星です。 早めに寝入ってしまって、気付くのも お返事も今になってごめんなさい。
失くしもの、心配なことと思います。 昨日の園内でそういうものは見かけませんでしたけど、 今日も気を付けてみてみますね!
(*13) 2023/11/19(Sun) 15時頃
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[それも、少し後になって、 坂理くんからキャンディさんへ送られた 全体メッセージを見て、もしかして解決したかしら?と ほっと胸を撫で下ろすことができたのだけど。 *]
(110) 2023/11/19(Sun) 15時頃
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――翌朝/ホテル405号室――
アラームもセットせず、倒れるようにして掛布団の上で眠りこけていたら、随分朝寝坊してしまったようだ。 るくあが死んだとされてから、数ヵ月。日課だった登校の"見守り"は必要なくなったから、ゆっくりとキャンディの顔を作るため鏡と対面する。緑と紫のカラーコンタクト。地毛を隠すウィッグの、昨日給仕ロボにあげたリボンのスペースには、ガチャでゲットしたゆるい顔つきの地球クリップを留めて。
その時、『アポロ』に着信が。 眠気まなこを見開いて、マスカラを乾かしている最中だった。 まるで誰かの遺髪めいた見慣れたミサンガが、千切れることなく写った添附ファイル。
(111) 2023/11/19(Sun) 15時頃
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/* >根っこがとても真面目な良い子 てれてれ
(-18) 2023/11/19(Sun) 15時頃
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(坂理へ個人送信)
『そっ そ そ れ だ ―――― !!!!!🌟
見つけてくれてありがとう!! 感謝感激雨霰!!!!
どこに居るのかな、すぐ取りに行く!! 何ならホテルのフロントかロボの誰かに 預けておいて貰っても!!』
(*14) 2023/11/19(Sun) 15時頃
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