31 私を■したあなたたちへ
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── 現在:中央カフェ ──
[ キャンディから届いたメッセージを開く際、 一瞬だけ『クロス』という文字が見えた気がした。 本名ということもあり得るが、 もしかしたら別の意味もあるかもしれない。
例えば、黒酢やcross、clothなど。 と思考を飛ばしながら、 密星から届いたメッセージを開く。
丁寧な文面と共に、 撮るのに悪戦苦闘したような写真を見れば やはり彼女は箱入り娘なのではなかろうか>>0:114 というイメージを卯木は強めたのだった。 ]
(44) 2023/11/17(Fri) 10時半頃
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[ それから、坂理から届いたメッセージを開く。 個別に届いたものからも、 一斉送信で届いたものからも 坂理の情報はほとんど明らかでなく 名前と大学生であること、 文面からおそらく男性であるのだろう ということしか分からない。
自身の情報を話さないというのは 一見怪しい行動と思われるが、 卯木が知る限りでは、あのホログラムが出て以降 一番最初にコンタクトを取ってきたのは この坂理という青年だった。 ]
(45) 2023/11/17(Fri) 10時半頃
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[ 招待客を探る姿勢という意味では、 なかなか悪くない動きではあると思う。
もっとも、その探る相手は 煙崎るくあの殺害犯なのか、 それとも、実は招待主の方なのか── ]
(46) 2023/11/17(Fri) 10時半頃
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(坂理への個別メッセージ)
『坂理さんですね。初めまして、でよろしいでしょうか。 煙崎さんからあなたのお名前を 伺った記憶はあります。 ただ、失礼ながら、 どういった間柄と言っていたかまでは 覚えておりませんが。
煙崎さんはよく来店されていたので、 ほうじ茶や大福を気に入っているというのは 社交辞令ではないとは思っておりましたが、 他の方にもそう仰っていたと聞きますと、 やはり本音だったのだと確信が持てて 安心してしまいますね。
坂理さんもよろしければ、 いつか兎坂庵に来店していただけますと幸いです。』
(*13) 2023/11/17(Fri) 10時半頃
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[ メッセージを送った後、 ふいに煙崎るくあから 坂理の名前を聞いた日のことを思い出す。
その日の煙崎るくあは男性連れで来店したが、 入り口で別れてしまった。>>40 彼のことは遠目からチラリと見ただけだが、 随分と整った顔つきだなと思った記憶がある。
「次はご一緒できるといいですね」 と煙崎るくあに話しかけた時に、 坂理のことを話したのだったか。 ただ、やはりどういった関係性だと言ったかまでは 覚えていないし、 そもそも煙崎るくあの口からは、 『坂理くん』という言葉しか出なかったかもしれない。 ]
(47) 2023/11/17(Fri) 10時半頃
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煙崎さんの交友関係は、 随分と広かったようですね。
[ 先ほど画像で見た派手な風貌のナカムラといい、 遠目から見ただけで容姿端麗と分かる この坂理という青年といい、 ここの招待客は多種多様に思う。
人間関係のトラブルがあっても不思議でないな、 などと思いつつも、 卯木はグラスに残っていた 特製クリームソーダをごくりと飲み干した。 ]**
(48) 2023/11/17(Fri) 11時頃
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――貸衣装館「星の夢」
[建物は、瀟洒な洋風の館をミニマルにしたもので、 白と藍色のコントラストが際立つ、凝った造りのものだ。 テーマパークのアトラクション内容について、 己は殆ど把握していない。 何の施設だったか、と巡らせながら 木製の鈴を鳴らせて。
そこにはシンプルな恰好をした飾り気のない女が、 紐で構成された、刺激の強そうな服を手にして 立っていた。>>38]
(49) 2023/11/17(Fri) 11時頃
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気に障ったなら、悪かったな。 密星……生徒たち……、あぁ、学校の先生か。 あんたの名前は知っている。
るくあの……、 っと、俺は煙崎灰羅。 さっきのホログラムの、煙崎るくあの兄だ。
[高校の養護教諭である密星は、服装もあってか、 あまり派手な風貌はしていない。 どうやら、ここは衣装レンタルと写真館の店らしい。 縁のない場所に来たようだ、と苦笑を零す。]
(50) 2023/11/17(Fri) 11時頃
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記念の仮装写真、は大いに結構……だが、 その服……? いや、他人の趣味にとやかく言う気はないが。
[近づいて、面積の狭小な衣服を摘まみ上げた。 そのまま密星の上半身に宛がって、 壁に嵌め込まれた全面鏡を指し示す。 こうだぞ? というように。
これで、どういった衣服か想像がつくだろうか。 とはいえ、理解してのチョイスであるなら、 然して驚きはすまい。**]
(51) 2023/11/17(Fri) 11時頃
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――アトラクション『月面大戦争』前――
ショッキングな放送を見た影響か、卯木のメールを皮切りに、次々と通知が舞い込む。暫く『アポロ』のお世話になりそうなので、まずデバイスを自分仕様にカスタマイズし始めた。通知音、背景画像、色やUI全般。スマホも、デフォルト設定のままだとつまらないと感じてしまうタイプだ。それは、歪んだ自己主張のようなもの。
「兎坂庵のマスター……あそこか。 確かにるくあがよく行っていた。
キラ様と雛子ちゃんには会ったし、
ゲッ!! 菊センまで来てんじゃーん!! るくあの担任だったこと、あったあった。 けど、殺人容疑? 生徒を殺す?
バレないとは思いたいけど……、 特にメイク落とした後は、 顔合わせないように気を付けないと。」
メールの情報を目で追いながら、名前と顔写真を一致させていく。 『菊セン』は中学校の生徒たちが勝手に呼んでいた愛称だ。こちらもうっかり本人の前で口走らないよう、注意を払う必要がある。
(52) 2023/11/17(Fri) 12時頃
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「高校の先生、はさすがに知らなかったな。 密セン……ミっちゃん……偲風先生……、 うぅん、呼び方保留。 てかこの写真ピンボケてるし、 もうちょっと構図とかバランスとかトリミング……!」
明らかに素人感丸出し、普段自撮りなんてしないんだろうな、と察せる一枚に、指導したくてたまらない。はて、どこかで見かけたような気もしたが、すぐには思い出せなかった。
(53) 2023/11/17(Fri) 12時頃
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そして、最後によろしくの愛想すらない短い一文に、くわっと瞠目。
「坂理、坂理――、」
『坂理くん』と柔らかく呼ぶるくあの声が、脳にまざまざと蘇る。そこには、推しのキランディに向けるほどの情熱は感じられなかったけれど。写真すら添附されていないが、容姿もハッキリ覚えていた。るくあが高校生になってから交際い始めた、彼氏の名だ。まるで周囲に見せつけるような寄り道をしながら、放課後の帰路を並び歩く姿を、自分はずっとずっと――"見守っていた"のだから。
「そうだよなァ、恋人だもんなァ。 招待されないわけがない。
……犯人とかどうでもいいから、 ■んでくれないかな。」
ギリリ、と奥歯を噛み締めて低く嘯くと、鬱憤を晴らす八つ当たりの刃で宇宙人たちを蹴散らしに、月面基地へと足を踏み入れた。*
(54) 2023/11/17(Fri) 12時頃
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二杯目のドリンクは「ロケット・ランチ」にした。 まさにロケットの打ち上げような衝撃が味わえる。 そんな触れ込み通り、一口含んだ時点で なかなかパンチの利いた味がした。
平時に飲もうとは全くもって思わないが、 やはり空間が持つ雰囲気に染まることこそ、 テーマパークの醍醐味だろう。 パークに置いて、はしゃぐのは最早礼儀ともいえる。
なお醍醐とは牛乳を加工した汁を表すが、 乳製品の味は全くしないので注意してほしい。
よし、閑話休題。
(55) 2023/11/17(Fri) 12時頃
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『 初めまして卯木さん。 俺と煙崎さんは交際関係にありましたよ。 社交辞令などとんでもない。 兎坂庵のことを語る煙崎さんの頬は いつになく綻んでいました。
機会があればぜひ。 彼女の思い出話でもしたいですね。 』
(*14) 2023/11/17(Fri) 12時頃
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個別のメッセージを返す。
煙崎るくあとの関係性。 探られるのは予想していた。 もしも本当に彼女を殺した犯人がいるのなら、 動機の面で重視されるポイントだろう。
愛憎は表裏一体と聞く。 彼氏と答えるのは避けるべきかもしれないが。
兎坂庵へは、同じ高校の生徒も良く訪れている。 彼らは俺達が恋人同士だと思っている、 そのために演じていたのだから。
ならば虚偽を告げたところで、 露見の可能性は十分にあった。
(56) 2023/11/17(Fri) 12時頃
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「 まあ、こっちが嘘なんだけどね。 」
共犯である煙崎るくあはもういない。 一人で偽りを続けること。
いつか感じた苦味に近しい感情が、>>40 どろりと渦巻いた後、澱みとなって 腹の底に溜まっていくのを感じた。
(57) 2023/11/17(Fri) 12時頃
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どうして、だろうな。
問いかけたのは、誰に対してか。
もし煙崎るくあを愛することができたのなら。 嘘にしないですんだなら。 俺は彼女と付き合ったりなどしなかっただろうに。*
(58) 2023/11/17(Fri) 12時頃
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あの日、踵を返した理由。>>40 卯木 宙太は俺の初恋相手に似ていた。
(59) 2023/11/17(Fri) 12時半頃
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幼稚園の先生に恋を落ちる。>>0:152 よくあるエピソードだ。
ただ、それが男性であることは、 幼稚園教諭の男女比率を考えると 珍しいことだったかもしれない。
『 ひいらぎ君はね。 大きくなったら可愛い女の子の お嫁さんを貰うんだよ。 』
(60) 2023/11/17(Fri) 12時半頃
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淡い想い行方など、端から決まっていた。 こちらは未就学児だ。 相手が異性だとしても叶うことはなかっただろう。
『可愛い女の子のお嫁さん』。
初恋相手の青年は、 俺が好きだった温かな声と優しい笑顔で 俺が異質だということを教えてくれた。
(61) 2023/11/17(Fri) 12時半頃
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男性ではない。彼だから好きだったのだと。 貫けたなら、まだよかったのかもしれない。
しかし存外惚れっぽかった俺は、 年齢を重ね、再び恋をして。 惹かれるのはいつも同性だった。
そのくせ神様は、異性受けのいい外見 ──── なんてものを与えたから。 彼女らは無邪気に俺を校舎裏に呼び出した。
頷けるわけがなかった。 期待に満ちた目が、「どうして?」と曇る度に、 自身の異質さに潰されそうになる日々。
告白にかこつけ、 過剰なスキンシップでも要求されようなら、 喉奥から込み上がるものすらあった。
(62) 2023/11/17(Fri) 12時半頃
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煙崎るくあと出会ったのはそんな頃だ。
彼女は同性から見ても魅力的な女性だったのだろう。 勝ち目がないからと。 煙崎さんと付き合ってから、告白はわかりやすく減った。
訪れた平穏。 胸を焦がす感情はなくとも。
愛する必要のない相手と過ごす時間。 身体を重ねることも、 キスも必要としない関係は、存外心地良かった。
(63) 2023/11/17(Fri) 12時半頃
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彼女に最後に会った日。>>0:96 包み込むような淡い微笑みを今も覚えている。
(64) 2023/11/17(Fri) 12時半頃
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その日の勝負は、俺の負けだった。>>0:172 敗北の代償として、俺はくだらない話をした。
淡々とした軽い口調で、 いつものように、個人情報を彼女の耳に寄せて。
「 俺が好きな奴は、君のことが好きらしい。 」
高校で出会った彼は、 お人好しで、他人のために損をして笑うような。
そんな、不器用なタイプだった。 …… どうにも俺はそういうのに弱いらしい。
(65) 2023/11/17(Fri) 12時半頃
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「 君と付き合っている俺は恵まれているそうだ。 イケメンは羨ましいと。
…… まあ、あいつだけじゃないな。 よく言われるよ。 」
(66) 2023/11/17(Fri) 12時半頃
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「 なのに、どうしてだろうな。
俺はちっとも、 自分が恵まれているとは思えないんだ。 」
(67) 2023/11/17(Fri) 12時半頃
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口元は微笑んだまま。 涙の代わりに、瞳の奥で光が揺らめいた。
あんまりな言い方だったと思う。 仮にも交際相手へ。 理不尽をしか与えられなかった彼女に対して。
「 私たち、本当にお揃いね 」>>0:97 …… あの瞬間。 何を持って煙崎るくあがそう言ったのか。 確かめることはもう叶わない。
今更ながらに思い知る。 死ぬとはそういうことだ。
(68) 2023/11/17(Fri) 12時半頃
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「 …… さて、どうするかな。 」
ロケット・ランチ。>>55 二口目を飲むのは断念した。 代わりに、椅子を引いて立ち上がる。
答えはわからなくとも、決まっていた。
訃報を聞いて、涙を零すことすらできない。 薄情な彼氏だった。
そんな俺が今できるのは、 せいぜい、彼女の痕跡を追うことだけだろう。**
(69) 2023/11/17(Fri) 12時半頃
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── 中央カフェ ──
[ 坂理から個別メッセージが届く。>>56 彼が言うには、煙崎るくあと彼は 恋人同士だったとのこと。
なるほど。パッと見ただけの印象であれば お似合いの二人だったのかもしれない。 けれど── ]
(70) 2023/11/17(Fri) 14時半頃
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その割に、煙崎さんからは 恋愛事の相談はされませんでしたね。
[ 柔和な印象で人当たりのいい卯木は 店のお客様からよく相談を受ける。
旦那の愚痴を聞かされたり、 恋人へのプレゼントについて相談されたり そういったことはしょっちゅうあったのに、 煙崎るくあからは そういったことをされた記憶が卯木にはなかった。
まあ、恋愛に興味がないと公言していたため、>>0:59 「こいつに相談しても無駄」と判断された可能性も もちろんあるのだが。 ]
(71) 2023/11/17(Fri) 14時半頃
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