10 冷たい校舎村9
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— 3階廊下 —
[わたしたちは次の目的地を教室に定めた。 ひとみちゃん>>338は一ヶ所寄り道するらしい。 進もうとしたわたしとひとみちゃんの間に一歩分の 差ができて、腕が引かれた紐みたいに上がる。]
……うん、分かった。 何があるか分からないから気をつけてね。
[一緒にいようと言った手前迷ったけれど、 ここから教室まではそこまで距離がない。 わたしは頷いて、ひとみちゃんの手を離す。
ひとみちゃんの指には紺色のハンカチが、 わたしの手には薄青色のぼたんが残った。]
(342) 2021/06/09(Wed) 01時頃
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[わたしの拙い約束に、 ひとみちゃん>>339が微笑んだ気がした。
わたしの抱えたものも、 ひとみちゃんの抱えたものも、 何ひとつなくなってはいない。
でも心が少し軽くなったのも本当だから、 わたしは初めての約束を笑顔で交わした。]
(343) 2021/06/09(Wed) 01時頃
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[それから、]
ひとみちゃん。
[階段を降りる手前、 わたしはひとみちゃん>>340を呼び止める。]
ひとみちゃんが良かったら、 友達のこと、また聞かせてね。
[こっちは約束じゃなくてお願い。 ううん、お願いより柔らかいわたしの気持ち。
ひとみちゃんが疲れちゃった理由が 信じてくれないこと>>261なら、 わたしなら大丈夫なんじゃないかな。
ひとみちゃんの事情を何も知らないわたしには、 こういうことしかできない。 こういうことが、できるんだ。]
(344) 2021/06/09(Wed) 01時頃
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それじゃ、先行ってるね。
[ひとみちゃんはどんな反応をしただろう。 わたしはぼたんを握った手を振る。 ひとみちゃんの姿>>340が角の向こうに消えるのを 確認してから、階段を降り始めた。]*
(345) 2021/06/09(Wed) 01時頃
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— 2F廊下 —
[2階へ戻ると、3−10の扉は閉まっていた。 その扉には「グロ注意!」って大きな文字>>234。 近くのポスターを使ったんだろう。 掲示板の一角がその大きさだけ欠けていた。]
……。
[わたしは震えそうになる足に力を込め、 その隣、3−9の扉に手をかける。]
(346) 2021/06/09(Wed) 01時半頃
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— 3−9教室 —
[見慣れた教室は夜の薄布がかけられて、 どこか暗い印象を覚えた。 人がいないせいもあるだろう。 部屋に詰められた椅子と机はほとんどが空席だ。]
鳩羽、くん……?
[その中で唯一埋まった席にわたしは視線を向ける。 机に突っ伏した頭は朝見た時より燻んで見えた。]
……。
[寝てるのかな。倒れてはいない気がするけれど。 九重さんのことを思い出して、 わたしの喉がひゅ、と音を立てた。]
(347) 2021/06/09(Wed) 01時半頃
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[足音を殺して近づいて、頭の近くで耳をそば立てる。 呼吸音が聞こえたなら胸を撫で下ろしただろうし、 それより前に鳩羽くんが気づいたなら それはそれで安心だ。だって、ちゃんと生きている。
どんな結果にしろ、わたしの視線は一度黒板へ向かう。]
こんなの、あったんだ。
[朝出て以来、わたしは教室へ戻ってきていなかった。 見覚えのある炭蔵くんの書き込み>>0:1170以外に、 既に知っている扉や窓のこと>>1:163>>1:281、 もちろん、人形>>2:79のことも。安堵の息を吐く。]
(348) 2021/06/09(Wed) 01時半頃
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えっと、
[わたしはチョークを手に取って、 情報ゾーンに書き込みを増やした。
・1階と2階の部屋は文化祭の仕様になっていること (3階はまだ見て回れてないこと) ・そのどこにもわたしたち以外の人がいないこと ・渡り廊下から外に出ようとしてもできないこと
もうみんな知っているかもしれないけど、一応。 渡り廊下の話はしばらく悩んだ後、 わたしはわたしが経験したままを書いた。]
(349) 2021/06/09(Wed) 01時半頃
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[それから、わたしの目は見覚えのある文字へ向かう。]
うーん、大丈夫……元気、は違うか。 ごはん……た、べ、た?
[乃絵ちゃん>>1:577の文字の右下に、右肩上がりの文字。
だって、ため息が聞こえる。 乃絵ちゃんに失望が降り注いでいるかも。そう思った。
「大丈夫」や「元気」は乃絵ちゃんが気にしそうだから、 わたしは「ご飯食べた?」を選んだ。大事なことだ。 その後に「くれいし」を付け加える。
話が逸れるけど、わたし自分の苗字を漢字で書くの、 正直あんまり好きじゃない。 だって形がお墓に少し似てるでしょ。
まぁ、今そんなことはどうでもいいから、 書き終わればわたしはチョークを手放す。]
(350) 2021/06/09(Wed) 01時半頃
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クレープ……。
[綿見さんの伝言は、他のものと少し温度が違っていた。 でもわたしの空腹にはぴったりだったみたいで、 お腹がいい感じの音を立てる。]
[鳩羽くん>>192はどうしていただろう。 わたしは手を払った後、自分の席へ戻って鞄を開いた。
取り出すのはぬる〜い>>0:945を通り越して そこそこつめた〜いホットレモン。
キャップを開けて傾ければ、さっき上がってきた 酸味とは違う爽やかさが、口内を洗い流してくれた。]**
(351) 2021/06/09(Wed) 01時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/09(Wed) 01時半頃
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— 3−9教室 —
[もし、クレープのことを黒板に書いた綿見さん>>255が まだ教室にいて鳩羽くんと話していたとしても、 わたしの安堵と行動はほとんど変わらなかったはず。
その時は、2人の話を邪魔しないよう先に手を振って 黒板に文字を書き連ねただろう。]**
(388) 2021/06/09(Wed) 08時頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/09(Wed) 08時半頃
夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/09(Wed) 13時頃
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— 22時が迫る頃:3−9教室 —
[教室に入って時計を見上げたら、もう寝てもいい時間。 教室の中には鳩羽くん>>403と綿見さん>>458がいた。 2人は話し終えたのか、ただ同じ場所にいるだけなのか、 静まり返る教室に、わたしの喉の音>>347だけが響く。]
……。
[落ち着いて考えれば、綿見さんが落ち着いている時点で 鳩羽くんが死んでいるなんてありえないと分かるけど、 あの光景を見た後だと、どうしてももしもを拭えない。
鳩羽くんの席は窓際>>1:54にある。 わたしは綿見さんがいる前で教室を横断し、 おそるおそる鳩羽くんに近づいた。]
(520) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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おぉ……、失敬。
[あと少しで鳩羽くんの音を確かめられるかというところ、 机に伏せていた顔>>406が急に上がった。
驚いたよ。驚きましたとも。 おかげでどこかで誰かに言った>>0:1036みたいに 変なこと言っちゃった。 別に時代物を好んでいる訳じゃないんだけどな。
耳慣れない言葉にわたしの動揺を誤魔化せますように。 そう思ったのに、鳩羽くんが少しだけ笑うから。]
うん、生きてるね。
[なんて、仰け反る鳩羽くんへ正直に言っちゃった。 わたしはそのまま黒板へ向かい、 わたしが見てきたこと、言うべき言葉を綴る。]
(521) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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[手をあげて先に生存確認を済ませた綿見さんは わたしの文字を見ながらぽつりと呟く。 文字を書き終え、教室を出ていく綿見さんを見つめた。
瞳と同じくらい黒い髪。 何だか背後にいても見られているみたいだ、なんて さすがに空気に呑まれすぎかな。]
クレープありがと。 食べるの楽しみにしてるね。
[わたしが貰ったレシピのクレープはあるかな。 わたしの文化祭は写真一枚とレシピひとつになった。 綿見さんとわたしを繋ぐ思い出に、わたしは声で触れる。 半拍、息を吸った。]
(522) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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楽しいだけなら良かったのかな。 ……でも、現実じゃなくなっちゃうけどね。
[綿見さんが教室を出ていく。 1人は危ないと呼び止めようとしたけれど、 その先が浮かばずに、わたしは見送るだけになった。]
(523) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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[わたしはチョークを置き、鳩羽くん>>407へ向き直る。 顔を伏せている時には分からなかった。 声も、顔も、夜みたいに暗い。]
……。
[手元を見つめる鳩羽くん>>408を見て、 わたしは返事を止めて自分の席へ戻った。
取り出すのはつめた〜いレモン。 目を閉じたら、身体に入っていく道が分かる気がした。 残りの半分を傾けたら目を開く。]
(524) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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ね。お茶目じゃなかった。
[わたしの席は左から二列目の一番後ろ>>0:1154。 鳩羽くんから隣の列。 ここから鳩羽くんを見ると、空の色がよく見えた。
雪の止む気配はなく>>#0、分厚い雲が重たく広がる。 鳩羽くん>>409の目にもお日様は見当たらない。]
(525) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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[わたしは握りしめていた薄青色のぼたん>>196を ハンカチの代わりにポケットに入れる。 これで片手が空いた。 わたしはホットじゃないレモンを左手に持ち替え、 鳩羽くんの机に向かう。]
うん。
[机の前に回ってしゃがみこむと、 わたしは鳩羽くんの机に両腕を乗せた。 ……訂正。 ちょっと高さが足りなくて、踵を持ち上げて誤魔化す。]
(526) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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それはね、さすがのわたしでも分かるよ。 あと、元気がないのは悪いことじゃない。 何なら普通でしょ。今、この状況なら。
[少なくとも、わたしは鳩羽くんより元気だ。 だってクレープの文字にお腹が震えたし。 そうあれたのはひとみちゃんのおかげなんだけど。
3年間のつかえが取れて、未来の約束もした。 力になれるならって思ったけど、 結局ラクになったのはわたしの方なのかも。]
(527) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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[そんなことを知らない鳩羽くんは、 平気そうなわたしを見てどう思うんだろう。
彼が学校中を探し回った>>192なら わたしたちの姿も目撃したかもしれないけど、 たぶんわたしはひとみちゃんを見ていて気づかなかった。
わたしが知っているのは、わたしの不安を ひとみちゃんと一緒に晴らしてくれた声>>227だけだ。
1年前まで、他人からの見え方を気にしたことのなかった わたしは、今でもそういうとこ、ズボラなんだよね。]
(528) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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[わたしは鳩羽くんの机の上に、 鳩羽くんが綺麗だって言った指を広げる。]
綺麗でしょ。 ずっとずっと大事にしてきたからね。
[右手の指3本にチョークの粉がまぶされた以外に 傷も汚れもなくて、爪の短いわたしの手。 鳩羽くんの手はどこにあったかな。 もし近くにあるのなら、横に並べて見せようか。]
わたしのたからもの。
[鳩羽くんの笑みは弱々しくて、声は掠れていて。 続く言葉>>411にわたしはへらへら笑う。]
(529) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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[元気がないことを誤魔化すみたいに続いた言葉>>411に、 わたしは不思議そうに瞬きをする。]
なんだ、そんな風に思ってたんだ。
[やっと解けた勘違い、鳩羽くんが引きずっていたもの。 わたしはそれを何てことないみたいに返す。]
お母さんのことは、いいの。大丈夫。 死んじゃったけど。死んじゃったから。
[わたしは首を横に振ってから口を開いた。]
(532) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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思い出さなくても、忘れたことないしね。
(533) 2021/06/09(Wed) 21時頃
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いつも笑ってる鳩羽くんにも、 そういうことあるんだって思ったんだよ。
当たり前だよね。誰もが何かを抱えてる。
[雨みたいに弱音を降らせる子>>0:718がいる。 髪の向こうに眸を隠して、永遠に留まりたい気持ちを 否定できない人>>1:493がいた。 足元が崩れた途端走り出した子>>1:29もいたし、 月曜の音楽室、膝に顔を埋めた人>>90もいたね。 たったひとり、 自分にしか見えない存在を隠してきた友達>>261もいる。
もし、今が楽しいだけの思い出>>458の中だとして ここにはわたしたちしかいないんだけど、 それでいいのかな。]
(534) 2021/06/09(Wed) 21時半頃
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[ひとつ、気づいたら、 たくさんの重しがわたしの周りにあるような気がして。
ふと、柊くん>>84との話を思い出した。]
みんな、寂しいのかな。 ……鳩羽くんは、寂しい?
[鳩羽くんとの話し方、忘れちゃったと思ったのに、 わたしはするすると言葉を紡ぐ。 腰が抜けた拍子に、死人の皮が取れちゃったのかな。
選べねー運命っていうのは、 どのくらい鳩羽くんを苛んでいるんだろう。 朝なら聞けなかったことをわたしは口にして、 鳩羽くんを見上げた。]
(535) 2021/06/09(Wed) 21時半頃
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[眠るように棺に収まったお母さんと 首の裂けた九重さんの人形。 わたしは濃密な死に怯えはしたけれど、 その二つを悲しみで秤に乗せることはなかった。
だから今度はわたしが、深呼吸もせずに 鳩羽くんへちゃんと笑って見せよう。]
(536) 2021/06/09(Wed) 21時半頃
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[だって、わたしが左右に吊り下げたのは、 『死んだお母さん』と『生きているお父さん』だけだから。]*
(537) 2021/06/09(Wed) 21時半頃
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夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/09(Wed) 21時半頃
夜笑国 メイは、メモを貼った。
2021/06/09(Wed) 21時半頃
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[わたし、首が裂けた九重さんを見た時、 怖いと思った。生々しい死に怯えた>>48。 人形だって気づかなかったから尚更。
……でもね、わたし。 ひとみちゃんが教えてくれて、鳩羽くんの声が届くまで、 一度だって、九重さんが死んだことに悲しんでない。
そのことに、気づいちゃったの。]
(588) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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[わたしの心は、夢と一緒に埋まっている。]
(589) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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— 夢が終わった日 —
[お母さんのお葬式には、 会ったこともないような人がたくさん来た。
お母さんの親戚に、お母さんの教え子。 お父さんの両親も来てくれた。
お父さんとお母さんの家はどちらも裕福で、 喪服の良し悪しなんて分からないけど、 制服を着たわたしにはみんなすごい人に見えた。]
(590) 2021/06/09(Wed) 23時頃
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