17 【半突発身内村】前略、扉のこちら側から
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[ さみしいだとか、かなしいだとか、 そういう痛みを伴う感情は。 たのしいだとか、うれしいだとか、 そういう痕を残す感情は。
人間よりずっと長い時を生きる私が、 持ってはいけない感情なのです。
私が”人間に不要なモノ”であるように、 感情は私にとって不要でなければなりません。]
(115) Pumpkin 2022/03/12(Sat) 22時頃
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[ 白い光、白い大地、ぽつんとあるカウンターの上。 同じくらいの大きさをした生き物と、私。 透明な半円の境界線と私だけの扉。
それだけだった、はずなのに。
いつの間にか、 私の周りにたくさんの思い>>10が溢れていました。]
(116) Pumpkin 2022/03/12(Sat) 22時頃
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[ 名前のないもの、名前があるもの。 美しい緑に甘い茶色。好きな景色に嫌いな色。 光の覗いた曇り空も、忘れてしまった息の仕方も。 もう二度と見ることのできない愛しいすべてへ。
はじまりの色の上を彩るおもいは、 全部が違っていて、それなのにどこか近くて。
みんなみんな、少し悲しくて、さみしそうでした。]
(117) Pumpkin 2022/03/12(Sat) 22時頃
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[ ひとりぼっちで、取り残されてしまったような。 ひとりぼっちに、寄り添ってくれるような。
”それ”が、ほんの少し満たされたような気になる。 ……私が? 本当に? どうして?
私には分かりません。 だって私は、今までもこれからも ”それ”以上でも、”それ”以外でもないのですから。]
(118) Pumpkin 2022/03/12(Sat) 22時頃
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[ ねぇ、坊や。そうでしょう?
だって私はあなたに選ばれて、 あなたが望むままに引きずられただけなのです。
だからあなたがいなくなったとして、 私が寂しがるのはとってもおかしなことです。]
(119) Pumpkin 2022/03/12(Sat) 22時頃
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[ これまでもそうでした。 人間は私を置いて、先に行ってしまう種族です。 迷い、悩み、多くの問題を抱える種族>>0:23です。
ゆえに人間は、短い時を生きるのです。 心を燃やして、刹那の痛みさえ糧にして。
人間とは違う私が”そう”染まってしまったら、 そんなことはありえないけれど、 これからも多くの別れを経験して、嗚呼、 迷い、悩み、怒り、嗚呼、苦しんで、 その度に直面する問題に苦悩して、呻いて、 嗚呼、嗚呼、 どうしたら、 ]
(120) Pumpkin 2022/03/12(Sat) 22時頃
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[ ――私は、百万年の孤独に耐えられるでしょうか。]
(121) Pumpkin 2022/03/12(Sat) 22時頃
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[ お父さまとお母さまは、手紙を書くよう言いました。 だから、私が言葉を待っても二人は微笑むだけです。
坊やがいなくなっても、お父さまは 私を夢のサンプルにすることはありませんでした。 万年筆と名づけてくれたお母さまも、 坊やにしていたように私を撫でるだけでした。
ただ、もう一度、私に手紙を書くよう言いました。]
(122) Pumpkin 2022/03/12(Sat) 22時頃
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[ 白いおもいの中心で、私は丸くなりました。 頭のような部分だけを上げ、宙を見上げます。
すっかり煌めきが満ちてしまった私の内とは違い、 光を知らないような、暗い暗い宇宙の色>>0:#1。
その中心に一筋、星>>33が流れました。 暗闇を一閃して道を切り開いてくれるような、 強くて優しい、あたたかな色をしていました。]
(124) Pumpkin 2022/03/12(Sat) 22時頃
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[ まるで目≠ナも奪われてしまったかのように。 煌めきの残滓さえ見逃さないように。
私は、宙を見ていました。]*
(125) Pumpkin 2022/03/12(Sat) 22時頃
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[ どれくらいの間、私は宙を見上げていたでしょう。
瞬きにも満たない時間だったでしょうか。 人間の一生に足り得る日々だったでしょうか。 私にとっては、どちらも大差はありません。
人間が生まれ、私を染め、内から消えていくのも、 国が生まれ、地を染め、時を刻む>>105のも、
すべて等しく、私を置いていくものですから。]
(181) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 時間も距離も、それから温度も、何もかも。 私には必要ないと省かれた部分にも、 どちらでもよいこと>>0:23があるのでしょう。
私は睡眠をとりません。 私が夢を見ることは許されません。>>1:64
だから、これはきっと。 私がはじめて見た、夢なんだと思います。]
(182) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 時間も距離も、それから温度も、何もかも。 私には必要ないと省かれた部分にも、 どちらでもよいこと>>0:23があるのでしょう。
私は睡眠をとりません。 私が夢を見ることは許されません。>>1:64
だから、これはきっと。 私がはじめて見た、夢なんだと思います。]
(183) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 白に囲まれた私に、またひとつ手紙が届きました。 解けるように開いた紙には、 見覚えのある名>>146が記されています。
井樋 水輝。 知らない文字であるはずなのに、 どうしてか、相手を呼ぶ音を私は知っています。
しかし、私には口も声も存在しません。 ゆえに、この場に名が響くことはありません。]
(184) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 曇り空のような人でした。 どんよりと薄暗いのに、 向こうに差す陽が薄っすらと見えるような。
優しいだけじゃなくて、綺麗ごとだけじゃなくて、 辛いことも受け入れられないこともあって。 気持ちの置き場を見失い、それでも大切な人がいて、 前を向くと決めても、耐えられない夜はあって。
これは、私の想像でしかないのですけれど。
交わした言葉は多くはありませんでしたが、 水輝の世界は私から遠いところにあるようでした。 けれど、誰よりも私の知る人間に近い子でした。]
(185) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ だから、ということにしましょう。 手紙を書く前から分かっていたことですけどね。
気のせいかもしれないけれど。 ――扉の向こうから声が聞こえます。]
(186) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 私は水輝の書いた手紙を読んですぐに おもいの輪からずるりと身を滑らせました。
だから、私が二枚目を読むことはありませんでした。 私にとって、カルピスは食べ物のまま。>>26 それで良かったのかもしれません。
いつか>>147、なんて。 私のよく知る人間に似ている水輝が 私が叶えられない願いを綴っていることを、 知らずに済みましたから。]
(187) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 生きることについて尋ねた兎>>2:134がいました。 ”私”は”人間の望む役目を担うもの”なのに、 書いた言葉は私から溢れたものでした。>>2:152
もしかして、お父さまとお母さまが願ったのは、 こういうことだったのでしょうか。>>122
私の望み。私の思い。 そんなもの、どこにもなかったのに。 あなたたち>>2:158はずっと、私に人を求めた。]
(188) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 水輝にとって、 私は”バキュラム”ではなく、”B”なのです。
それがたとえ偽りの名でも、 あなたがふとした瞬間思い出してくれる度に、 私は息を吹き返すのでしょう>>2:151。きっとね。]
(189) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時頃
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[ 私の尾は私のおもいを文字にしませんでした。 だから二度と水輝に手紙は届きません。
問いに口が閉ざされたように、 名前のない手紙が二度と訪れなかったように、 永遠の暗闇を星の光が裂いたように。
私たちの繋がりはどちらかが筆を止めた時点で 完全に、永遠に、途絶えるものです。]
(190) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ 名前を知らない相手がいました。 境遇を知らない相手もいました。 過去も、未来も、姿形も、理由も、意味も。
ひとときの夢の中で私が手にしたものは、 目覚めた瞬間の温度で解けてしまうくらい、 弱々しく、不確かなものです。]
(191) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ けれど、そんな不確かな存在がいるだけで 救われることがあるのだと私は思います。
広い広い世界。 いつかひとりぼっちになってしまうとしても、 星の数ほど、この世界に存在している誰かが居て。
私と同じように、生きているのですから。]
(192) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ 傍らに在った白い生き物はどうしていたでしょうか。 まだまだチーズに夢中だったかもしれませんが、 私は構わず、白い生き物に身を沿わせました。
ぐるり、ぐるり、と。 端から見ればBがAを捕食するようでしたが、 幸か不幸かここには私ともうひとりしかいません。]
(193) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ 私は静寂を破りました。>>1:36 ただ――アシモフ、と。呼びたかったから。]
(194) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ アシモフのちいさな指先が私の手紙に触れる度、 私は何度も感謝と喜びを伝えました。
さいご、ですから。 さいごなのに、さいごだから、 アシモフの手≠煩わせることはしません。
瞬きより長く、人間の生より短く。 手を持たない私の抱擁は、 アシモフにとって拘束だったかもしれませんけれど。
一度だけ奪ったアシモフの自由が、 私がここに残したさいごのものでした。]
(195) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ 私には、手も腕もありません。 だから手紙を抱きかかえることはできません。 あったとしても、空っぽだったでしょうけれど。
鍵だけが、私の跡をついてきました。 カウンターの上から見た扉は遠くて小さかったのに、 自ら動くことなどほとんどない私でも 簡単に辿り着くことができました。
目の前に来れば、もう気のせいなんて思えません。 声が聞こえます。人間の声が、扉のあちら側から。
旅立ちの時です。]
(196) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ どんな扉だったでしょう。
鎖より頑丈な言葉で閉ざされた扉かもしれませんし、 祈りの声と若い草の匂いがする扉かもしれませんし、 隙間風が通り過ぎる煤で汚れた扉かもしれませんし、 色鮮やかなな色が覗く真っ白な扉かもしれませんし、 ローブを着た何者が手を伸ばす扉かもしれません。
私の書く文字が見るものの望む形になるのだから、 私が見た扉もそうであったに違いありません。
真実は手紙の代わりに私が持って行きます。 答えが知りたいなら、どうか私に望んでください。]
(197) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ その言葉が私に届くのであれば、ね。 私は私の意思で、扉の向こう側へと進みます。
そして――私は石畳に横たわっていました。]*
(198) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 21時半頃
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[ 坊やがいなくなって、何度星空を見上げたでしょう。
瞬きにも満たない時間だったでしょうか。 人間の一生に足り得る日々だったでしょうか。 私にとっては、どちらも大差はありません。
人であることを求められた私には、 鮮やかな感情をこの身に灯してしまった私には、
すべて等しく、私に痛みを与えるものです。]
(221) Pumpkin 2022/03/14(Mon) 23時半頃
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