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[手紙を投函するポストはもうここにはない。
だから、まるであたかも「蜘蛛の糸めいた、一縷の望み」に懸けるかのような形で、その手紙は虚空に飛ばされた。
なおこの時、ジェニファー/デアドラは、
『キミたちみんな、元の世界に戻れるようにはする』
という妖精の約束をすっかり忘れていたという。
無論、「元の世界に帰れる=この世界で“死んで”も帰還時には復活できる」、という考えにも至っていない。
そしてこの手紙の紙面に流石に入りきらなかった二つ目の追伸は、結局出さずじまいのままに終わる。
実際のところ、追伸のためだけの二通目を送ろうとはしていたのだが――。
それを記していた丁度その時に、川沿いの道路に“あのランサー”の亡霊を発見したことで、手紙ははらりとリフィー川の中に落ち、消えていく。]
[その亡霊とここで邂逅するまでもなく、相手の正体――真名は初めから解っていた。
それどころか、あの“ダブリン聖杯戦争”での思い出も、カケラではあったけれど既に思い出していた。
デアドラがダブリンで出会った“あのランサー”は、
ジェニファーがカルデアで出会った“わたしのランサー”と同一の英霊だったのだから。]
召喚した時と同じ。
やっぱり、ランサー。
あなたはわたしに気づかないんだね――なんて。
[“あのランサー”の亡霊は、三枝槍の柄を地面に着けたまま川の方――つまりデアドラの方を向いている。
しかしその亡霊がこちらに襲い掛かる気配は一向にない。
幽霊の状態のデアドラにその亡霊が反応しなかった理由は、デアドラには定かには知れない。
“ランサー”ではない別の亡霊にデアドラが気づかれる可能性自体はあるし、
もし仮に、やはり幽霊のような状態と化した別の“選手”がこのフィールドに入った場合、このフィールドの亡霊はなんてことなくその“選手”に襲い掛かってくるのかもしれないが――。
如何な仕様差でそうなるのかは定かではない。おそらく。]
[ジェニファー/デアドラは、懐かしいようなさびしいような苦笑をふっと浮かべた。
そして亡霊がこちらに気づかないのをいいことに、その場の空中に座り込んだまま二つ目の封筒を手に取る。
……ちなみにだが、ヴィクトーリアに送り損ねた二つ目の追伸には、そのランサーの弱点がずらずらと書かれていた。
セイバー、ライダー、アサシンのシャドウサーヴァントの存在の示唆と共に、
「狩りに行くなら今のうち」
という文面まで認められていた。]
――戦さ場を開始します!
[それは強化魔術のトリガー。己を鼓舞するように叫ぶ。
相手の得物はドス。
胴を薙ぐ一撃を転がってかわし、部屋の中へと進む。
体勢を整え、すぐに降ってくる蹴りを避けると右の太刀を振るう]
くっ――!
[刃は届かない。
切り返しで振われた刀に左手を裂かれる。
さらに投擲された無数のドスに、
大きく後退し両の太刀で弾く。
当然隙は生まれ、また攻められ、
傷が増え、あえぐように息を吐く。
こぼれた血が床をこぼし、手足の力を鈍らせ、
1分にも満たない交錯でさえ、
生きているのが奇跡なほど。
それだけサーヴァントと人間の差は大きい]
(でも、私はひとりじゃない)
[これが自分の追憶を再現した影であるならば]
アーチャー!
来て!
[祈るように叫ぶ。
刹那、女の後方から無数の弾丸が飛び敵を狙う。
背後に現れた男の人影は、女に並び立つ]
[しかし、それを言うなら向こうもひとりではない。
アサシンの後ろに少女(に見えた)の人影が現れる。
戦闘に参加するそふ素振りは見えないが、
機を待つようにこちらをずっと窺っている。
ふたりとも、油断できる相手ではない。
されどマスターとサーヴァントが揃えば、
戦力もチャンスも対等と信じられる。
並ぶその背は女に勇気を与えた]
[――だから、その瞬間忘れていた。
相手が弾丸の雨を防ぐ隙に、駆け出そうとした、
その時だった]
――――、あ、
[銃弾が、心臓を貫いた。
それは彼の宝具のリスク。
必中の魔弾は時に術者の一番大切なものへと飛んでいく]
(それでも、私は――)
[身体は倒れゆく。
最後に思ったことは声にはならず、虚空に消えた]
…………また死んじゃいました。
[意識を取り戻し、ぽつりつぶやく。
倒れ伏したまま、立ち上がることはない]
もう一度経験して、やっとわかりました。
私は、アーチャーを恨んではいません。
でも、でも、
……どうしても、悔しいんです。
[腕で目を覆う。
鉛を吐き出すように、一言一言が重い]
負けたことが、私の力が届かなかったのが悔しい。
アーチャーの宝具の運用だって、
もっといい方法があったはずだって、
私がもっと強ければ、もっと戦えたのならばって
そんな「もしも」ばかり考えてしまうことが悔しい。
あんなにきれいにアーチャーと別れたのに、
こんなにぐずぐずしてるなんて、
すごくかっこ悪いじゃないですか、
いやだなあ……、
[生暖かい涙が皮膚に触れて、気持ち悪いと思った]
メモを貼った。
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(20) 2021/04/17(Sat) 20時頃 |
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(22) 2021/04/17(Sat) 20時頃 |
![]() | 【人】 代執筆 レックス そんなに悔い改めたいなんて、よい心がけですね! (23) 2021/04/17(Sat) 20時頃 |
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(52) 2021/04/18(Sun) 09時頃 |
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(53) 2021/04/18(Sun) 09時頃 |
[二通目の封筒は、白を基調としたアンティーク調。
その封筒を閉ざす百合の封蝋を目にすれば、開かずとも差出人の想像はつく。]
死んでから天使の手紙が来る、なんて、
いかにもありそうなのにヘンな感じ。
[「そもそもわたし“異教徒”だし」なんて突っ込みもぽつり、声なき程度の微かさで漏れる。
中身を取り出せば、封筒とは異なる材質の紙――羊皮紙の便箋。
デアドラとしてはあまり馴染みなく、ジェニファーとしても触れる機会の限られる羊皮紙だったが、素朴なそれの手触りはどこか心地いい。
その上に踊る月明りがごとき金色を、黙して読み進める。]
[今度は、デアドラが手紙を破り裂くことはなかった。
かといって笑うわけでもなく、頬緩めるわけでもなく。
ただ、その返事に認められていた「すこし、ふしぎ」を目に留めた時には、ぱちぱちと瞬いていた。]
……そんな機会、
きっと、ないさ。
別になくたっていいけれど。
[ぽつりと零しながら、永遠の夜たる黒い空を仰ぐ。
本来の聖杯戦争では“怪談のキャスター”がこの夜の異界の作り手だったのだが、この世界においては、“怪談のキャスター”の亡霊が潰えても夜は明けない。]
お迎えの天使とか、わたしには関係ないし。
キャスターがラファエルなモードで
迎えに来る、なんて思わないし。……。
[かの手紙の中でも「天然」と評された存在を思う。
ちなみに向こうの世界でも、“その御使い”は天然なところがあるとのこと。
あちら側の天界では一体どんなうっかりさんをやらかしているのか――なんて想像までは至らなかったけれど。]
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