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【人】 明仄∴暁星 クロエ
(156) 2021/06/15(Tue) 02時頃 |
── 現在・病院外 ──
う、嬉しかったらダメかよ!
[なんてさ。
巫山戯るのなんて永遠にできるんだ
鳩羽憐に春が訪れない理由を論ずる会は
ぜひ開催して欲しい。ついでに春持ってきて。
ああほんとうにさ。
永遠にやってたいけど、
今は、本当に嬉しがるときじゃないから
まだ帰ってこない仲間が帰ってくるまで
とりあえず続きはさ、お預け。 ]
[本心と称賛以外のナニモノでもなかった
だから「がんばらないと生きていけない」とかさ
「そんな世界を苦しく思う気持ち」とかさ。
……それでも、がんばりたい気持ち、とか。
………ほら、やっぱり判ってないんだよ。俺。
知ったとて「頑張ってるからえらいよ」って。
「でも無理に頑張らなくてもいいよ」って。
そんな言葉が口から出かねない俺は、
喉元に掛かる手、大きな意味に気づけない。
たぶんさ、そうじゃないだろ。 ]
……そっか。
[苦しかった。って。
けど、「今は」少しマシだって。
シンの答えは、シンプルだった
それから苦笑とともに質問をひとつ、ふたつ。]
うん、人形、見たよ
苦しそうだった。
俺、シンがあんなになるまで
シンのことさあ、ちゃんと知らなかったなって
…………………うん。
それでもさ、教室、来てくれようとしてたろ
知ってるよ。嬉しかったよ。
[やりきれない想いとか、
まとまらない感情は沈黙に乗せた。
メイからちょっと聞いたシンの断片については
今は、伏せておくことにする。]
[そういうもんだから…っていう
シンの話も聞いてさ
えらい、とか頑張ってる、とか、すごいとか、
そういう客観的に誰かを測る言葉じゃなくて
大丈夫か、とか無理すんなとか、
そういう心に負担を掛けちゃう言葉でもなくて
俺の「うれしい」っていう気持ちを送るよ。
ああ、でもさ、 ]
心配は、させてよ。
心配は、したいの、俺が。
………なんっつーかなー
別に馬鹿な話、してるだけでも
日常はさ、すげー楽しいけど
でもさー シンのこと全部知れてねーみたいで
それはなんかめっちゃ悔しい
[悔しいって言いながら
それなのに顔は笑ってるから、
俺の感情はやっぱどっか忙しい。
っつうかなんだろうな、言葉だけ切り取ると
彼女みたいじゃん????って思うから
あっそういう事?俺に春が来ない理由。]
俺の傷?
ああ、うん、……………うん。
あっちの世界で、傷つけた名残だと思う。
俺もさ。
シンとは別かもしんないけど
やっぱり息苦しいなって思うことあんだよ
………いや、あった、んだよ。
自分と向き合ったら空っぽで、
いつだって取り繕ってて、さぁ
イヤだって思っていきてきたわけじゃねーけど
それじゃだめだなって思ったのは確か。
ああ、でも
シンと居た時は、
深呼吸なんてしなくても、息、吸えてたから
だから、うーんそうだな、
……ありがと。
[息苦しい自分はさ、
「昨日」までの世界に、置いてきた。
だから今は、「ありがとう」それだけ。
それでもいつか寄り添ってくれるっていうなら
ちゃんとイチから全部、話すから。
だからシンのことも、教えてよ。 ]**
── 現在・病院外 ──
ダメとは言ってねーだろ。
俺もうれしかったよ。……うん。
ただ、ちょっと驚いた。うん。
[ 自分で言いながら納得するように、
慎一はうんうんうなずいていた。
たぶん、慎一もわかりやすい方だろうけど、
鳩羽の背後にはたまにしっぽが見える。
びゅんびゅん振れてるそれを見て、
驚いたとしても、ヤなはずがなかった。]
[ だから本当に、女子ってわからない。
本当にみんな残らず帰ってきて、
気兼ねなくうれしがれる時がきたら、
男子みんなで顔を寄せ合って話し合おうか。
女の子は秘密のお菓子パーティーをしたという。
男の子にもなにかがあってもいいだろう。
……それで対抗できるのか? わからないけど。
しかし困った。
あいにく当方、春は在庫切れだなあ……。]
[ こんな話はまた今度でもいいね。
「知らなかった」と鳩羽は言う。
知らせようとしなかったのは慎一だ。]
……知ってもらう気なかったからね。
だってさ、変に気遣われると、
俺、変な奴みたいじゃん……そうなんだけど。
[ ちょっと言いづらそうな何かとか、
間のあいた相槌とか、そういうの全部、
なんだか少しもどかしかった。
モヤモヤさせたいんじゃないんだけど。
人との向き合い方がへたくそでごめんね。]
[ 教室に辿り着けなかった慎一は、
そのことを指摘されて笑う。
ああ、遠かったなあ……、
集まろうって言うくせにさ、
時間の決め方、すんげー雑で、
なんなんだよって思ってたの。
うれしいって、おまえ、
マジで人がいいというか……、
[ おかしなことを言うなあって思ってた。
なんていうか、再会の「うれしい」も、
今の「うれしい」もピンとこなくて、
慎一はただ、いいやつだなあって思って。]
[ ……思ってた。
「心配したい」と言われて、
人が良すぎるって思い始めるくらいには。]
そーいうとこだよ。
すごいなっつってんの。
あれもこれも人のこと心配して、
全部知っても、疲れるじゃんか。
[ 少なくとも慎一にはできないソレ。
確かに、そういうことかもしれない。
みんなに優しい男はモテないって聞いた。]
[ そう。そういうふうに考えてて。
やたらと「うれしい」とか、
妙なやつだなあって思ったりもしたけど。
なんだか話の雲行きが妙だった。
というか、慎一からすると不思議だった。
「自分でやったの?」と眉をひそめて、
まじまじとその傷を見つめたりしながら、
鳩羽が息苦しさを語るのを聞いていた。
慎一の周りの人たちは思い切りがよくて困る。
黒沢も、炭蔵も、鳩羽もみんなそう。]
[ 礼を言われて、慎一は不思議だった。
「息が吸えた」と言われて、
「シンといたときは」と言われて。
慎一は一瞬、意味がわからなくて──、
それで、ぽかんとしていたんだけど、
だんだんと込み上げてくるのはなんだろう。
「うれしい」で合ってるかな。
たぶん、そのときやっと気づいたのだ。
友だち甲斐のないやつでごめんね。]
[ 「みんな」の中のひとりじゃなく、
たくさんいる中の友だちAでもなく、
どうやら鳩羽は慎一に言っているらしい。]
[ いつだって誰かの背を追いかけている気でいた。
みんなより遅れて、先をいく背中ばかり眺めて。
ひとりはさみしい。
慎一の視界からみんなが消えたらさみしい。
そう考えることはあっても、
前を向いて先を行く他人の視界に、
自分がなにかの意味を以て存在するなんて、
慎一はたぶん、想像したことがなかった。]
[ だから、あの世界に呼ばれてうれしかった。
少なくとも誰かの中に存在したんだと思えて。
「俺だったらどうする?」って聞かれて、
同じように聞き返す気だって起きなかった。
慎一が消えて泣いたやつがいたなんて知ったら、
そりゃあもう、抱きしめちゃうだろうね。力一杯。]
……そっか。そっかあ。
[ へへ、みたいな笑いを堪えきれずに、
慎一はちょっと視線を泳がせていた。
少しだけでも、誰かにとって、
お荷物なだけじゃないなにかになれてたら、
慎一はうれしいよ。とてもうれしい。
「ありがと」と言われたら、
「どういたしまして」がお決まりだろうに、
どうも言うタイミングを逃してしまった。
代わりに、笑みを浮かべたまま口を開く。]
レンが他の奴にするみたいに、
当たり前みたいに接してくれて、
俺はさ、楽しかったよ。うれしかった。
人付き合い、苦手なのに、
そういうの憧れだったから。
息をするのが少しくらい大変でも、
俺、おまえとバカ騒ぎしてたかった。
でもさ、どっかで思ってたんだ。
俺にとっては特別なことでも、
レンからすれば当たり前なんだろうって。
……だから、なんかさ、
ああやってバカ話してるだけの日常が、
レンにとっても意味があったんなら、
なんか……よかった、……ありがと。
[ へらりと笑ってみたりするけれど、
これは何も上っ面の笑顔ってんじゃなく、
ただ、なんか力が抜けちゃっただけ。
これくらいはちゃんと立ち止まって言おう。
なぜか大事に抱えちゃってたコーラは、
たぶん、もうちょっと、いやだいぶぬるい。
だってこの寒い中、慎一は結構あたたかい。]
……なあ、また、
一緒にアイス食ったり、
昼飯食ったり……食ってばっかだな。
そういうふつーのこと、してくれる?
レンがそうしたいときだけでいいよ。
深呼吸に疲れたときだけでもいい。
……俺も疲れちゃったときは、
今日はパス! って言うかもしれないし。
[ 願わくばどちらか一方の望みとしてじゃなく、
そういうふうに続いていけたらいいって、
そんな大それた祈りを込めて、慎一は笑った。**]
メモを貼った。
[ 本当にお見通しだったら困るな、と
くすくす笑いかえしておいて。
そっか。
まあ、そうだね、……似たような事態が
私にも起こっていたのは確かだし。
……わかり、やすかった?
[ 他人事だと思えなかったから、相談に乗った。
その見立てはあながち間違っていないし。
さて、ならば。
今度は私の相談したかったことの
一端とその顛末をお伝えしておこうか、と。]
帰っちゃったのはしょうがないよ。
ちょっとびっくりしたけどさ……
…… 私の場合はさ。ずーっと、こう、
幻聴って言っちゃあそれまでだけど、……
そういうのが、聞こえてて。
それにちょっと追い詰められてた、っていうか。
今はもう、聞こえないし大丈夫だけど。
ほんと、四六時中そうだったから。
静かすぎて逆に、なんだか慣れないや。
[ 説明が難しいな、という表情をしながら
それでもどこかすっきりした様に。]
利美のお札……まぁ、
捨てなくてもお守りに持ってたりしても
良いんじゃないの?
どういうものかは知らないけど。
[ ひとみが集中治療室の方に行くのなら
いってらっしゃいと手を振って。
…… まだ、あまりそっちの方に行く気には
私はなれなかった。
冷えた指先を摩りつつ、待合室に佇んでいる。]*
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