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「もう薄々気付いてるかもしれないけど。
大人も、思ってるほど立派じゃないの。
でも、あなたたちよりは知識をもってるから。
困った時は頼りなさい。」
[ふいに、そんな台詞が耳に届いて、
目を丸くするのは今度は俺の方。
でも、それ以上話を続ける前に
車が病院に到着したから。
運転席のその人は、じっと俺の方を見ていた。]
「由樹。
あなたの顔を久しぶりに見た気がする。
……友達、無事に回復するといいね。」
[そう言って俺を見る母さんは、
少し気まずそうな顔で。
それでも一番最初に会った時みたいに
穏やかに微笑んでいた。
その時初めて、俺も。
まともに彼女の顔を見て話したのが
随分久しぶりだってことに気付いた。]
[―――うん、だから。
殴りこみを頼むのはもうちょっとだけ
話してからでもいいのかもしれないな。
気持ちは有り難く受け取っておくよ。*]
― 病院にて ―
[俺の家は豊高から電車で2時間かかるところにある。
つまりそれだけ郊外にあるわけで、
鳩羽よりも到着するのは遅かったと思う。
受け付けの人に黒沢が居る部屋を聞いて、
病院内の廊下を歩く。
皆帰って来てる筈、とは思ったけど
やっぱり姿を見るまで安心は出来ないからさ。
きょろきょろと知り合いの姿を探していれば
誰か見つけられただろうか**]
メモを貼った。
── 病院外・シン ──
半信半疑だったよ。
だからうれしーんだよ言わせんな!
[居なくなったやつが帰れるかどうかは、
俺ん中でずっと確証なんて、なかった。
いや、だってさ
世界と同化するとか言うやつがいたから…
まあ結果的に帰ってこれたから、いいんだけど。
照れ隠しにゴツ、とグーで肩を正面から小突く
また蹌踉めかせても悪ぃから、
全然強くは小突いてないけどな! ]
[でも肝心のノエは帰ってきてない。
本当の「良かった」を言葉にするのは、
もうすこし、あとに取っておきたい。……って ]
え、なに?
男前っていった?
もう一回言っていいよ
[傷を擦りながらへらへらと笑う。
絆創膏は、あとで頼んでみようかなって
ちょっと頭の隅にとどめておいた。]
[両手に収まったのはカイロ代わりになるふたつ。
丈ぴったりのダッフルコートのポケットはでかい。
両ポケットに突っ込んだなら、見た目は悪いけど
俺も無事、両手は空いた。
すこしはシンの両手も、軽くなるだろ。な。]
ええーどっちでもいいかなー
[選択肢を振ってみたものの、
ぶっちゃけ何から話したらいいのかなんて
改まって考えると、困っちまうよな。
どっちでもいいし、どっちもしたい。
なんなら馬鹿な話も、いくらでも。
目の前の「生きてるシン」に
相変わらず嬉しそうなのは否めないだろう
だって俺、昨日死ぬほど泣いたんだぜ? ]
[そんな矢先に、そんなこと、いうから
なんッでだよ
どこがだよ!!
[褒められるのには慣れてないんだよ(n回目)
シンよりすごいところがどこかにあるだろうか。
もしかしたらあるのかも?あるんじゃねえか?って
一瞬頭の中を探したけれど、思いつかねえ。
だから俺は、挙動不審だ。]
んなことねーよ
シンのほうがすげーし、
多分、すごく、頑張ってるよ。
[シンの歩調に合わせて、ゆっくりとなりを歩く
静かに笑ってるシンを見て、俺は言う。
やっぱりきっと、ちょっとだけ笑って。
自虐的だとか卑屈だとかそういう顔じゃねえよ?
だって、本当に、そう思ってる。 ]
………苦しかった?
今も、苦しい?
[何が、とは聞かなかった。
どう捉えてくれても構わなかった。
何が?って聞き返されるのならばそれでもよかった
服の下、首がどうなってるのかは知らない。
だけど苦しそうだったシンの人形は見たしさ。
メイに聞いた話だって、あるし。
でも、本当のシンが、
俺にどう話してくれるのかを
ちょっとだけさ、知りたかったんだ。
どんな答えでも、俺はシンの言葉をまっすぐ聞くよ。 ]*
メモを貼った。
【人】 泥炭採り ユンカー
(118) 2021/06/14(Mon) 23時頃 |
[ じっと、その深い色の目を見てた。
── 少し前・病院内 ──
[ ……なんか楽しそう。って、
うっかり言ったりはしなかった。
ただ、短く返された言葉を拾って、
「そう見えた」……そっかあ。
「人のことよく見てるんだね」とは、
そのとき、綿見には言わなかった。
同族嫌悪という言葉が浮かぶことは、
慎一の中ではついぞなかったが、
それでも、慎一も考えたわけだ。]
[ たとえば。腹の奥底に飼うむなしさの話。
慎一に深く根付いて吐き出せないそれを、
あるいは似たものを内側に抱えてるなら、
やっぱり、慎一は「よかったね」と思う。]
……あはは、
じゃあ、似たようなもんだなあ。
少しだけでも、綿見が、
身軽になれたんならよかった。
[ それともたまには、あのときみたく、
「むなしいね」って言い合ってみる?
……そんな日が来ないのが一番だけどさ。]
破裂する前によろしく。
……やさしく、な?
[ そんなこと言われたって怖いものは怖い。
いくら似たものを抱えていたって、
きっと慎一と君じゃあ怖いものは違う。
結局のところ互いに何を飼っていたのか、
その形そのものは知らないまんま、
慎一は綿見と番代に手を振って立ち去った。
お礼≠ニついで≠買うために。*]
メモを貼った。
[ それで今、缶飲料を抱えて、
12月の冷えた空気の中にいる。]
── 現在・病院外 ──
……うれしいんだ、へえー。
[ わいわいと騒がしく言うやつがあったから、
慎一はわざとらしくよろめいて笑った。
いつものおふざけみたいなノリに、
慎一も同じように笑っていたけれど、
半信半疑であったなら仕方がない。
世界と同化する説なんてちっとも知らず、
悪い気分じゃないから慎一は笑ってる。]
……男前だよ、
その傷がなけりゃな。
[ すっかりあいた片手で、
デコピンのひとつでもしてやろうか。
もちろん、傷のとこは避けるからさ。
別にあながち冗談ってわけでもないから、
鳩羽憐に春が訪れない理由を論ずる会なら、
後日別途開催してもいい。喜んで参加する。
返ってきたどっちつかずの返答に、
慎一はへらりと笑って言っただろう。]
おまえがどうしたいか、
聞いてみたいと思ったのに。
[ やっと思ったんだけどな。
冗談みたいに軽い口調でね。
去ったあとでの校舎の出来事。
当たり前なんだけど、慎一は知らない。
なんかうれしそうだなあって、
不思議にさえ思いながら、また一歩歩いて。
コーラを右手に左手に持ち替えたりして。
だから、いつものどおりならさ、
適当にじゃれあうような話、
このままずうっとしててもよかった。
それでも慎一はきっと楽しい。]
[ でも、ほら。せっかくの機会だ。
勢いがいいなあって思ったし、
慎一は一瞬驚いたけど、聞くなら答えるよ。]
いっつも笑ってるとこ。
こっちがつられて笑っちゃうくらいに。
人前で機嫌よく振舞えるとこ。
ヤな顔もせず人に手ぇ貸せるとこ。
相手の「してほしいこと」ばっかり、
うんうん考えて、しまいに叫びだすとこ。
……そいつの顔もわかんねえのに。
[ 「まだいる?」って慎一は笑った。まだあるよ。
いっこも嘘じゃない。こっちもそんな顔してる。]
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