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病院の白い壁。
あの入り口のほうにいるのはシンだろうか。
ユキは、病院ついたかな。どうだろ。
『 でもさ、覚えておいて。
俺にとって、鳩羽家は。
親父と、アイちゃんと俺だけだから。
ほかのひとは、必要ないよ。 』
じゃ、行ってくる。
帰り?適当に連絡するけど、
待ってなくていいよ、寝てろよ。
……それかタクシー代ください、って言ったら
アイちゃんだったらげんこつモノだけど。
優しい親父はどうかな。
諭吉一人くらい恵んでくれないかな。 *
── 病院外 ──
シン!
[そうして病院の外の自販機に、
シンの姿が見えたなら、きっと駆け寄ると思う
よかった、無事だった。って。
へらっと笑った顔は、いつかの夏のように
心底嬉しそうな、顔をして。 ]*
メモを貼った。
── 現在・病院前 ──
[ いつもみたいにおどけてみたって、
目の前に横たわる笑えない現実は変わらない。
子どもみたいに「ずるい」と言って、
変なところで胸を張った番代に、
慎一は笑っていられたんだけど。
場を離れてひとり、
冷え込む空気に晒されながら、
自販機を見上げるころにはなんだか、
もう、全然。ちっとも笑えなかった。]
[ 暗がりにぼんやり光る箱の前。
自販機のラインナップを上から眺めて、
財布の中の小銭の合計を数えて──、
……そう。たとえば、なんだけど。
校舎に迷い込んで間もないころ、
「慣れちゃった」と言った黒沢に、
もし慎一が「そっか」以外を言えてたら。
……あったか〜いカフェオレ。
缶入りのそれを見つけてボタンを押す。
がこんって音がして缶が落下してくる。]
[ 落第生の反省部屋。
そういう言い方ができるのは、
慎一にその自覚があるからだ。
これからはもっとちゃんとやる。
もう少しがんばってみたいと思う。
表向きは前向きな言葉を並べてみても、
今、この瞬間、胸の内側にあるのは、
「むなしい」だか「くやしい」だか、
あのとき視界に確かに存在したものに、
慎一は手を伸ばさなかった、という自覚。
……仕方ないと思っていたんだけどなあ。
慎一は自分のことで手一杯なんだから。
人の助けになれればどんなにいいかと夢見ても、
慎一の腕はいつもふさがってる。だから仕方ない。]
[ 他人の面倒を見るなんて、
慎一にはまだまだ早かったみたい。
でも、ほら。
少しずつ自分との付き合い方を学んだみたいに、
いつかはそれもできるようになるかもしれない。
今はまだ早かっただけ。
みんなより少し歩みはゆっくりでも、
ちゃんと前には進んでるからえらい。
そのうちきっとできるようになるから。
そう言い聞かせるようにしてきたんだけど、
正しくて、前向きな考えのつもりなんだけど、
慎一は今、どうしようもなく悲しい。
……つめた〜いコーラ。片隅に追いやられてた。
またボタンをひとつ押す。ガコンと音がする。]
[ ……いつか、じゃダメだった。
慎一はもうあの校舎には戻れない。
せっかく慎一のことも招いてくれたのに。]
[ ……あったか〜いミルクティー。
缶じゃなくてペットボトルのやつ。
慎一は缶飲料のあの飲み口の感触がどうも苦手で、
だから、缶が多いコーヒーよりダンゼン紅茶派。
今もそれを探してボタンを押す。これでみっつめ。
取り出し口はぎゅうぎゅうだろうなあって、
しゃがみ込んで、手を突っ込んで、まさぐって。
……ああ、取り出しにくいったらない。
全然引っ張り出せなくて、泣けてくるくらい。
「くそ」ってひとりごちながら、
一つひとつ順番にパズルみたいに取り出してく。
もどかしくって、涙が出てくる。ばかみたいだ。]
[ できることなら慎一は、
今すぐあの校舎まで飛んで帰って、
なにか、なにか言いたい。分不相応でも。
あの手首を、全然痛まない程度に握って、
一緒に帰ろうってここまで引っ張ってきちゃいたい。]
[ ……気づくのも遅いんだよなあ。慎一ってば。
手の届く小さな範囲に抱くくやしさも、
「言えよ!」って叫びたくなる気持ちも。
どれも遅すぎたので、雑の飲み物を取り出しながら、
ただひたすら、もう一度目の前に立ってほしいと思う。
慎一の視界にも入るとこに。両手を広げて届く距離に。]
[ ……ごめん、綿見。
もう少し頭を冷やしてから戻るね。
カフェオレ、ちょっと冷めるかもしれない。
番代は──、コーラが爆発したらごめん。
そんなことを考えながら、
ぼうっとひとりで自販機の前に突っ立ってた。
たぶん、少しの間。両手に飲み物を抱えて。]
[ ひとりでいるのはさみしい。
ラクなはずなのに、楽しくない。
そのうえ時にはひどく気が滅入る。]
[ ──なので、
そのとき声をかけてくれてよかった。
いつだって慎一はそう思ってる。
馬鹿げた量の買い出しのときも、
非日常めいた校舎の中、日常ぶってみたときも、
それから今、ひたすら自販機の灯りを眺めてたときも。]
── 現在・病院外 ──
……えっ、うわ、わっ、
[ ほとんど意識が内側に向いてたものだから、
慎一は唐突にかけられた声に驚いて、
落としそうになった飲み物のバランスを取ったとこ。
一瞬、ぽかんみたいな顔をして、
まじまじと10秒くらいは見慣れたその顔を見つめた。
いつもと変わらない顔。いつかみたいな笑顔。
混線しかけた脳内がゆっくりと整理されて、
帰ってきたのか、というところにやっと行き着く。]
──レン?
[ その瞬間、あの世界がどうなったとか、
いろんなこといったん全部さておいて、
慎一もつられたように笑う。いつもみたいに。
なんていうか──、
君の笑顔にはそうさせる何かがあるよね。
とは、慎一は口に出しては言わなかったが、]
……レン、おかえり。帰ってきたんだな。
[ 顔が見れて安心した。
……ってのは隠しきれやしないだろう。]
で、その傷……、
またチャイム、鳴ったんだ。
[ 顔についてる真新しい傷のこと。
うすうす原因に想像はつくんだけれど、
そういうことだろうなと思いつつ聞いたりして。
中にほかのメンバーも来ていること、
それから、黒沢の母親がそこにいることも、
タイミングをみて伝えられるといい。*]
メモを貼った。
![]() | 【人】 泥炭採り ユンカー
(96) 2021/06/14(Mon) 21時頃 |
![]() |
── 病院外・シン ──
[持ち過ぎじゃあなかろうか。
コーラにカフェオレ、ミルクティー。
つめた〜いもあったか〜いも抱えたシンが
自動販売機の前で、ぼんやりしてた
あっごめ
[俺の声かけはシンにとっては
今日もイレギュラーだっただろうか。
荷物を取り落としそうになったシンにさ
ごめん、って思わず声をかけた。
それからぽかんとした顔をしてさ、
こっちをじーって見つめるわけ。 ]
[レン?ってシンが呼んでくれて
ああ、なんか理解してくれたんだな、って
シンの中でなんか繋がったんだな、って
それがわかっちゃって、うれしくって。 ]
おう。ただいま。
[多分いまはさ、
こんなウキウキした状況じゃあ決して無いんだけど。
でも目の前のシンは少なくともずぶ濡れじゃなくて
マネキンなんかじゃなくて、息を吸える人間で。
だから、嬉しかったんだ、笑わせてくれよ。 ]
傷…
あ、そう、そうだった、痛ッ
[忘れてた。
車の中ではすっかり大事な話に気を取られてたし
ノエの話聞いてからはそれどころじゃなかった
忘れてたけど、痛いんだった。]
飲み物……
パシリ?
[中に居るであろう人物を思い浮かべる。
ひとみと、トシミと、マナと、リツ…… かな
それにしては本数が少ないけど。
リツは自分で買いに来そう。
トシミはこういうの頼まなさそう。
……ああなるほどなって勝手に理解したころには、
中に居たメンバーの話はきっと聞けたはず。 ]
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