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【人】 明仄∴暁星 クロエ ―― 音楽室 ―― (86) 2021/06/14(Mon) 19時頃 |
【人】 明仄∴暁星 クロエ
(89) 2021/06/14(Mon) 19時頃 |
【人】 明仄∴暁星 クロエ
(90) 2021/06/14(Mon) 19時頃 |
[責任感じるな、みたいな言葉
俺の知らないところで、言われてたこと
俺は、自分で聞いてないから知らないしさ。
それでもごめんな、って思っちまうんだよ
優等生じゃないけど
案外さ、責任感は人一倍強いのが俺だから
だからさあ。
今はユキの怒りが俺と同じ方向向いてるって
俺は信じて話してっけどさ。
実は 自分のための怒りだったとかさ
そもそもユキの境遇だとかさ
先にそーゆーこと聞いてたら
あーたぶんユキんち殴り込みにいくわ。
これは、10割本気で。 ]
[俺はさ、多分ユキやノエの、苦しみを、
たぶん根本のところで判ってあげられない。
生まれてきた境遇、環境は人それぞれだし
18年もの長い間に感じた想いと、
そこから生まれた感情っていうのは、
きっと、「似てる」からこそ判るものもある。
寄り添ってるつもりでもさ、
わかんねーことが多いんだよ。俺
だけど、似てない俺がさ、
それでも少しでも寄り添えてたらいいなって思うし ]
[ 誰かと軽く交わした「今度」が
ちゃんと訪れたらいいな、って、思うよ。 ]
[共に盃(森永)を交わしたマイフレンドは
至極現実的な問題を口にするから。
あーーーーーーーーー、確かに、って言って。
ま。冗談だからな。半分は…
じゃあ、とりあえず病院で、って
俺もきっと、電話を切ったはず。かな。 ]*
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── 自宅→ ──
[俺は玄関で靴の紐を結ぶ。
あの世界で貸したはずのダッフルコートは
きちんと手元に戻ってきている。
まさか最終的には
ユキの身体を温めてたなんてこと
俺は、知らなかったけどさ。
知らなくてよかったと思うぜ。
だって知ってたら
確実に恩を着せてたと思うから!(それな) ]
[出かけるの?ってアイちゃんが聞く。
友達が危篤、ってマジなテンションで言ったら
マジなほうでちゃんと捉えてくれたから、
これは家族であることに、感謝感謝。
こんな馬鹿やってる俺だけど
そーゆー洒落にならねー冗談は
絶対つかないのをアイちゃんは知ってる
送ってくぞ、って父親が言う。
最初は無視してやろうかと思ったんだ。
でもさ、少し考えてから
『 うん。病院まで頼む。 』 ]
『 なあ親父
俺、ちゃんと、考えたよ
駐車場から車は発進する
『 俺さ、高校卒業したら
この家、出ることにしたよ。だけど 』
オーディオからは
聞き慣れた、親父の好きな洋楽が流れてる
『 俺も、やっぱ嫌なんだ。
この家に、たとえ血縁だって
知らないやつが我が物顔で住むの。 』
乗り慣れた助手席
乗り慣れた車の匂い
『 想像したら、怖かったよ。
俺らの居場所はなくなる。
俺らの家族は、壊れちまうって 』
ウインカーの音
タイヤが道路に擦れる僅かな音
『 親父が、誰を好きになろうと
それは。構わないよ。
俺も、アイちゃんも家を出たらさ
親父、もう自由に生きられんだろ。 』
暗闇に浮かぶ赤信号
人通りの無い深夜の住宅街
それでも親父は規則をちゃんと守る男だ
『 家には、誰も入れないで。 』
それが俺の結論。
できれば籍も抜いて欲しい。こっちは願望。
『 あの家は。
俺と、アイちゃんと、親父の家だ。
俺が外に出てしまっても。
アイちゃんが外に出てしまっても。
帰りたい家のままに、しておいてほしい 』
ブレーキランプが点滅する
間もなく俺は病院に着く
『 俺と、アイちゃんの望みが叶うなら。
親父が誰を好きになろうとさ。
親父が誰に騙されようとさ。
そんなの。俺、知ったこっちゃないよ。
手酷く振られた親父のことさ
俺とアイちゃんで笑ってやるから。
だから、好きなようにしたらいいよ。 』
病院の白い壁。
あの入り口のほうにいるのはシンだろうか。
ユキは、病院ついたかな。どうだろ。
『 でもさ、覚えておいて。
俺にとって、鳩羽家は。
親父と、アイちゃんと俺だけだから。
ほかのひとは、必要ないよ。 』
じゃ、行ってくる。
帰り?適当に連絡するけど、
待ってなくていいよ、寝てろよ。
……それかタクシー代ください、って言ったら
アイちゃんだったらげんこつモノだけど。
優しい親父はどうかな。
諭吉一人くらい恵んでくれないかな。 *
── 病院外 ──
シン!
[そうして病院の外の自販機に、
シンの姿が見えたなら、きっと駆け寄ると思う
よかった、無事だった。って。
へらっと笑った顔は、いつかの夏のように
心底嬉しそうな、顔をして。 ]*
メモを貼った。
── 現在・病院前 ──
[ いつもみたいにおどけてみたって、
目の前に横たわる笑えない現実は変わらない。
子どもみたいに「ずるい」と言って、
変なところで胸を張った番代に、
慎一は笑っていられたんだけど。
場を離れてひとり、
冷え込む空気に晒されながら、
自販機を見上げるころにはなんだか、
もう、全然。ちっとも笑えなかった。]
[ 暗がりにぼんやり光る箱の前。
自販機のラインナップを上から眺めて、
財布の中の小銭の合計を数えて──、
……そう。たとえば、なんだけど。
校舎に迷い込んで間もないころ、
「慣れちゃった」と言った黒沢に、
もし慎一が「そっか」以外を言えてたら。
……あったか〜いカフェオレ。
缶入りのそれを見つけてボタンを押す。
がこんって音がして缶が落下してくる。]
[ 落第生の反省部屋。
そういう言い方ができるのは、
慎一にその自覚があるからだ。
これからはもっとちゃんとやる。
もう少しがんばってみたいと思う。
表向きは前向きな言葉を並べてみても、
今、この瞬間、胸の内側にあるのは、
「むなしい」だか「くやしい」だか、
あのとき視界に確かに存在したものに、
慎一は手を伸ばさなかった、という自覚。
……仕方ないと思っていたんだけどなあ。
慎一は自分のことで手一杯なんだから。
人の助けになれればどんなにいいかと夢見ても、
慎一の腕はいつもふさがってる。だから仕方ない。]
[ 他人の面倒を見るなんて、
慎一にはまだまだ早かったみたい。
でも、ほら。
少しずつ自分との付き合い方を学んだみたいに、
いつかはそれもできるようになるかもしれない。
今はまだ早かっただけ。
みんなより少し歩みはゆっくりでも、
ちゃんと前には進んでるからえらい。
そのうちきっとできるようになるから。
そう言い聞かせるようにしてきたんだけど、
正しくて、前向きな考えのつもりなんだけど、
慎一は今、どうしようもなく悲しい。
……つめた〜いコーラ。片隅に追いやられてた。
またボタンをひとつ押す。ガコンと音がする。]
[ ……いつか、じゃダメだった。
慎一はもうあの校舎には戻れない。
せっかく慎一のことも招いてくれたのに。]
[ ……あったか〜いミルクティー。
缶じゃなくてペットボトルのやつ。
慎一は缶飲料のあの飲み口の感触がどうも苦手で、
だから、缶が多いコーヒーよりダンゼン紅茶派。
今もそれを探してボタンを押す。これでみっつめ。
取り出し口はぎゅうぎゅうだろうなあって、
しゃがみ込んで、手を突っ込んで、まさぐって。
……ああ、取り出しにくいったらない。
全然引っ張り出せなくて、泣けてくるくらい。
「くそ」ってひとりごちながら、
一つひとつ順番にパズルみたいに取り出してく。
もどかしくって、涙が出てくる。ばかみたいだ。]
[ できることなら慎一は、
今すぐあの校舎まで飛んで帰って、
なにか、なにか言いたい。分不相応でも。
あの手首を、全然痛まない程度に握って、
一緒に帰ろうってここまで引っ張ってきちゃいたい。]
[ ……気づくのも遅いんだよなあ。慎一ってば。
手の届く小さな範囲に抱くくやしさも、
「言えよ!」って叫びたくなる気持ちも。
どれも遅すぎたので、雑の飲み物を取り出しながら、
ただひたすら、もう一度目の前に立ってほしいと思う。
慎一の視界にも入るとこに。両手を広げて届く距離に。]
[ ……ごめん、綿見。
もう少し頭を冷やしてから戻るね。
カフェオレ、ちょっと冷めるかもしれない。
番代は──、コーラが爆発したらごめん。
そんなことを考えながら、
ぼうっとひとりで自販機の前に突っ立ってた。
たぶん、少しの間。両手に飲み物を抱えて。]
[ ひとりでいるのはさみしい。
ラクなはずなのに、楽しくない。
そのうえ時にはひどく気が滅入る。]
[ ──なので、
そのとき声をかけてくれてよかった。
いつだって慎一はそう思ってる。
馬鹿げた量の買い出しのときも、
非日常めいた校舎の中、日常ぶってみたときも、
それから今、ひたすら自販機の灯りを眺めてたときも。]
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